まだ、それ程読んでいないが、ネット上でアップされているこの小説を少々みてい
ます。
主人公は、18歳で国際ギターコンクールに優勝した38歳の蒔野聡史。
蒔野のマネイジャー(後の妻)三谷早苗、30歳。
そのお相手は、才女で海外の通信社に勤務するジャーナリスト。父;イェルコ・
ソリッチ監督。40歳の小峰洋子。
平野啓一郎さんの小説は、「葬送」「日蝕」などあるけど、いつも数ページで頓挫
していました。ショパンを題材とした「葬送」は、連載雑誌「新潮」を2回、単行本数度
借用してチャレンジを試みるも、毎度数ページ止まり。長編小説は、自分にはムリで
した。
「マチネの終わりに」の第四章 再会(15)及び第五章 洋子の決断(1)の2ケ所に
出てきます。しかし、タイトル名のみで主人公がスペインでこの協奏曲を演奏する
というプロットで使用されているだけ。
毎日新聞の連載小説で連載されていたが、単行本で発売されて内容変更があるのかは
まだ原本をみていないので不明。
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第四章 再会(15)
去年はそんなことは一度もなかった。早とちりや頑固さを呆れられ、笑われることは
あっても、疎まれていると感じたことはなかった。むしろ関係者とトラブルになった時には、
割って入って庇ってくれることさえあった。
今は、思いと行動とがちぐはぐで、もどかしかった。三谷は、そういう自分に嫌悪感を
覚えた。
マドリードの事務局からは、安いチケットなので、変更は出来ないと購入前に何度も
念押しされていた。蒔野もそれは承知していた。
「一応確認して、無理なら、自分でどうにかします、片道分のチケットくらい。」
「だったら、要らなくなったチケットで、わたしが行ってもいいですか、マドリード!?
蒔野さん以外も、すごいギタリストがたくさん出演しますし。ギターの勉強のために。」
三谷は、あえて無頓着らしい明るさを装って、半ば本気でそう言った。普段なら、それを
すぐに冗談と取って笑いそうなものを、蒔野は、しばらく考えてから、そのやりとり自体を
持て余したように、少し微笑んで、「購入者の名前の変更って、出来るの?
――まぁ、会社が許すなら、いいと思いますよ。勉強になるし、確かに。」 と言った。
蒔野は結局、溜まっていたマイル・ポイントで往路の飛行機の座席を確保した。
マドリードでは、マリオ・カステルヌォーヴォ=テデスコがセゴビアに献呈した
《ギター協奏曲ニ長調》を演奏する契約で、機内でも、ワインで少しぼんやりした頭で、
急に気になりだしたスコアの数カ所を確認した。
初めてコンサートで演奏するこの曲のために、ここ一月ほどは、比較的練習に集中
できた。現地のオーケストラとの共演には不安もあったが、今は一人で舞台に立つより
気が楽だった。
機内には他に、洋子の父であるイェルコ・ソリッチ監督の《幸福の硬貨》と、彼がその前
に制作したもう一つの戦争映画《ダルマチアの朝日》のDVD、それに、最近書店で見つ
けた、リルケの《ドゥイノの哀歌》の新しい翻訳本を一冊、持ち込んでいた。
(省略)
第五章 洋子の決断(1)
スペインのマドリードで、テデスコのギター協奏曲を演奏した蒔野は、舞台に上がる前から、
いつになく緊張していて、開演時間を勘違いしていたり、PAの調整に手間取ったりする
現地スタッフに、何度か声を荒らげそうになった。終いには、見かねたコンサート・マスター
から、「ここはスペインだから。日本とは違うよ。」と、肩を叩いて宥められた。
献呈されたセゴビア演奏 第3楽章