昔々の。まだ、人々が呪術やまじないを絶対だと信じていたくらい昔のことでした。

 ある処に、神意石と呼ばれる大きな石がありました。人々は、望みをその石に強く願えば神に聞き届けられ、万事が解決すると信じておりました。しかし、そういった貴重なものは世の常、力あるものに支配され、限られた人にしか、触れることはおろか見ることさえ叶わなくなっていきました。そうして、在りし日のこと。

「どうか、神意石への祈祷の許可を!!」

 一人の薄汚れた青年が、神意石へ願い事をしにやってきました。何でも、彼の愛する家族達が軒並み、流行り病にかかってしまったらしいのです。青年の話を聞きながらも、石を守護する者たちは何度も食い下がる青年を頑として受け入れず、追い払いました。

「どうしてもというのなら、このかけらを持っていけ。もうここへは来るんじゃないぞ」

 藁にもすがりたい青年は、それを受取り去って行きました。

 そしてその数日後。―――それは起きました。

 石を守っていた者たちが、石を管理している者に先日の青年との出来事を話したところ、

「それは追い払って正解だ。神意石は願いの質にもよるが、1度願いを叶えるとしばらく叶わなくなる。その男もどうせ病にかかって死ぬだろう。かけらで叶えられる願いなどないに等しいからな」

 と返事が返ってきた。その瞬間―――

 

ドオオオォォォン!!!

 

 凄まじい音とともに、彼らの後ろの建造物が吹っ飛んだ。

 そうして数分後。

 神意石を保管していた場所とそれを取り巻いていた人々は、まるで何かの嵐にでもあったかのような、無残な姿へと変貌していました。かろうじて息のある者は、呟きます。

「ば、化け物…」

 そう、神意石のちょうどすぐそばで佇む彼は、まるで化け物のような姿をしていました。頭部より角が生え、筋肉は盛り上がり、爪は刃のように伸びて、辺りを見定めるその瞳は血のように真っ赤な色をしていました。とても、数日前の痩せ細った青年とは思えません。

 彼は、誰にともなく呟きました。

「俺は、愛する家族をすべて失った。誰かのせいにするつもりはない。…だが。神意石がある限り人の醜い心はさらけ出され、同じ悲しみが繰り返されるだろう。ならば―」

 その瞳に宿るのは悲しみでしょうか。あるいは、憎しみでしょうか。

「誓おう。俺は未来永劫、化け物でいい。この石とともに消えよう」

 ―――そうして。

 驚くことに、彼は神意石に溶けて混ざるように消え、さらに、石は粉々になって四方八方へと飛び散っていきました。もう2度と。この石のせいで、悲しいことが起こらぬように、という願いが込められていたのかもしれません。

 ここで、石をめぐる物語は1度終わりを迎えました。しかし、約100年前。この石の存在に気付き、その力によって世界の終焉と再構築を願ったものが現われました。

 彼の者の名を知る者はいません。しかし、彼が世界破滅のために創った組織ではキングと呼ばれています。

 彼の下に集まったのは、今現在で13人。それぞれがそれぞれの目的を持ってはいるようですが、最終的な目標は同じ。どういう原理かは謎に包まれていますが、『搾魂機』と呼ばれる発明品を使い、人間の魂を狩っているのです。

 

『同志よ!!世界は、斯くも醜い!!我々の手で、疾く浄化を!!』

 

 それぞれが必ず仮面を被っていることから、彼らはこう呼ばれています。

 

 仮面貴族、…と。

 

                ★

 

「…と、ここまでが話の前提部分ね。そろそろエロ分が足りなくなってきたかしら?」

「超いいえ」

 定期的にボケないと話ができないのだろうかこの人は。

 二杯めのお茶を汲んでやりつつ、俺はすみれに聞く。

「今の話を仮に真実だとして。おまえが70歳を超えていることにどう繋がってくるのか、まったくわからないんだが?」

 聞いて驚くがいい。俺の日本語の成績は2だ。

「慌てない慌てない。早い男は嫌われるわよ?」

 もうそろそろ俺の心が折れそうだ。

 深いため息をつく俺を見て、すみれはまた語りだす。

「そうね。先に言っておくと、あなたのおじいさん…賢悟さんは私の姉の旦那さんになるはずだった人よ」

 ………え?

「だから、あなたと私がここでこうして話しているのも、偶然だけではないの」

 そんな、摩訶不思議なことを言い出したのだった

 

―続く―