(序章)僕は帰ってきた

 

 ビルがある。

 駅がある。

 マックもある。

「………マジか」

 マジか。マジなのか。本当に本当に本当なのか。

 いや、さっきから何なんだろうと思っている諸君、すまない。

 でも、きっと今の僕と同じ状況になったならわかってもらえると思うのだ。

 何もかもが懐かしいと同時に、何もかもがもう見ること叶わなかったであろう景観。

 僕がここに帰ってくるまでに約3年。

 高校1年の5月頃だったはずだから、もう高校生は名乗れない。

「………よし」

 とりあえずだ。

 まずは家に帰ろう、そうしよう。

 

 赤茶色の屋根。

 武骨な塀に囲われた2階建ての1軒屋。

 間違いないな。

「――、ただいま!」

 僕は意を決し、玄関を開けて帰宅の言を紡いだ。

「あ、アニキお帰りー」

 台所からアイスを持った妹が、普通に迎えてくれる。

 ………………………………あれ?

「? どったの、そんなところで固まって」

 おかしい。3年ぶりに会った、失踪していた家族へ向ける反応じゃない。

 それに、中学3年だった妹は高校3年生になっているはず。…だが、変わったようには見受けられない。思わず妹の両肩をがしっと掴みまじまじ見る。

「!? な、何??」

 妹の顔が少し赤くなる。

「ちょっと、それはまだ早い…じゃなくて、何すんのよばかぁ!!」

 妹が殴ってくる。グーで。

 しかし今の僕には蚊が止まっているように視える。

「あれっ??」

 攻撃を避けられた妹が驚く。

「ちょっと、よけないでよ………………アニキ、なんか背が伸びた?心なしかたくましくなった気も…」

 妹がさらに驚いている。

 しかし僕は今そのことを説明することができない。

 なぜって、僕の方がより現状に驚いているからだ。

「我が妹よ、今日は平成何年何月何日だ」

「はあ?」

 怪訝そうな顔でこちらを見てくる妹。

 サイドテールの髪がゆらゆら揺れている。

 そんな冷たい目で見ないで欲しい。お兄ちゃん目覚めそうだ。

「今日は平成29年5月20日よ」

「………!!!」

 とにかく驚いた僕は、「バカな!?」という声を表情で表現してみた。

「キモ…」

 はい、マジ泣きそうです。

 突然だが妹の名前は梓(あずさ)。これでも昔は僕のことをお兄ちゃんと呼んでくれて、そりゃあもう可愛かったのなんの。しかし大きくなるにつれ呼び方はアニキに変わり、やけにつんつんし始めたのである。

 そりゃあ僕はオタクだし、世間様からキモいと言われても我慢するさ。でも妹に言われるとこれがまたこたえるのだ。まあ会話があるだけまだマシと思おう。そうしよう。

 心が折れた僕は妹と別れて自室へ。

 さて、状況を整理しようか。まず僕はこの町に帰ってきたのは3年ぶりだ。先程の妹とのやりとりでわかったこと、僕は背が伸びてたくましくなったらしい。そう、たくましくなった。大事なので2回言いました。つまり、夢オチではないということだ。加えて妹の言った日付も正しい。それはその辺に転がっている新聞や携帯を見ても明らかだ。

 

ああ、となれば導き出せる答えは一つ。

 

僕、鈴村蒔人(まきと)が異世界から帰ってきた時間は、3年前に異世界に飛ばされた時間とほぼ変わらない、ということだ。

 

―続く―