あれは私が
高校1年生の頃の体験
テニス部と
演劇部を掛け持ちしていた
(なんか美術もやってたような)
そんな私は
文化祭の演劇部のお芝居
を控えていた。
倫理を受け持っている先生に
観にきてね♡
と誘惑していた。
その先生はどちらかというと
(どちらかといわなくても)
かなり生徒にいじり倒されて
授業にならない日もあるほど
いじり甲斐のある先生だった。
倫理の授業って今思うと
本当にオカルティックだったな。
アガペー
とか
メシア
とか
その先生が熱を込めて
連呼していたのをよく覚えている。
見た目も本当にやせ細り
ガンジー
とか
空海
に似ている。
(そういえば年齢を聞いた時に意外と若くてつっこめなかったことを覚えている)
ガンジーや空海の授業の日はますますからかわれたり
真面目な生徒からもクスクス笑い声が出るほどだった。
それでも先生の
怒った姿は
見たことがなかった。
温厚な悟りを開いたような
性格(と見た目)から
本当にからかっている生徒とは裏腹に
結構慕っていた生徒もいたのである。
私もそんな中の一人で
休憩時間には友人と
先生に会いに行ったものである。
昼食時には
先生は必ず決まって
小さなヨーグルト一つ
食べ終わるところだった。
テーブルにはその他に食べたような形跡がいつも無い。
はたから見るとなんとなく節約かなのかな
という違和感。
なんか失礼だと思い聞けなかった私をよそに友人があっけらかんと聞いたのだ。
どうやら先生は毎日ヨーグルトしか食べていないようだった。
それを聞いてちょっとふっくら体型の友人はガハガハ笑っていた。
話は戻るけど
明日の演劇部のお芝居観にきてね♡
というと先生は
明日は忙しいという。
そんなわけはない
担任のクラスを持っていなければ
顧問の部も持っていない。
副担任でもないし
副顧問でもないのだ。
それでも明日は忙しいんだ、の一点張りだった。
なんかその時のなんというか
先生の晴れやかな顔を覚えているんだ。
でもどことなく淋しそうだった。
なんだか例えが本当にとんちんかんで申し訳ないのだけれど、
《結婚式の前日の花嫁》
のような顔だったんだ。
どんな顔だよ。
おっさんやぞ。
あるいは
明日から飛鳥IIに乗って世界一周の旅に出てしばらく帰ってこないような顔だったのだ。
でもそんななんとも言い難い
私の心に引っかかる回答だった。
文化祭の当日
先生が亡くなられたと
全校集会が開かれた。
とても真面目な先生だったので
当日になっても学校に来ない先生を心配して同僚の先生が自宅を訪ねたんだそう。
返答がなく大家さんに開けてもらうと
布団の中で外傷も苦しんだ様子も
急病の片鱗も何もなく亡くなっていたそうだ。
生活の様子も変わりなく
先生の性格がでているような
何もかもが整えられた
綺麗な部屋で亡くなられていたそうだ。
嘘のように亡くなられてしまった。
あっけにとられている私を横目に
私の友人はすでにぐしゃぐしゃに泣いていた。
季節が少し過ぎ、
友人は先生にお線香を上げに行きたいと行った。
どうやったのかすでに先生のご実家の住所を調べて持っていた。
県内ではあったが2時間くらいかかるので
その時の私の生活行動範囲では大冒険の部類だった。
なんだか本当に遠かった記憶しかないけれど、坂道の多い密集した住宅地の中にご両親だけで住まわれていた。
田んぼの真ん中に暮らしている私にとっては小洒落たところだなと思った。
お線香を上げさせてもらって
その後によく来たねと紅茶やらお菓子やら出してもらって
すごく慕っていたことを告げた。
よく喋るお母さまで
なんだか先生のイメージと
相反するお母さまだった。
母上なのに、先生より見た目が20は若く見えた。言い過ぎじゃない。
そのくらい先生がおじいちゃんみたいだったのだ。
和やかに先生を悼む会話の中、
先生はいつもお昼ご飯にヨーグルトしか食べていませんでしたけど昔からですか？
って訪ねたら
お母さん結構な勢いで
「そんなことありませんっ！！」
って諭されてしまった。
そんな子じゃありません。って。
怖くてそれ以上聞けなくて
話題変えて少ししたらおいとました。
ふっくらしたお母さまは
たくさんのお菓子を持たせてくれた。
何年経っても
色々もやもやが残る中
先生は
やはり
死を悟った人だったのではないかと
感じざるを得ないのである。
先生が熱を込めて語っていた
即身仏
が頭をよぎる。
真面目な先生は
死んでもなお
修行を続け
えらい神さまに
なっているんだらうなぁ。
ねぇ、先生っ♡
