いつだったか、おばあちゃんの駄菓子屋さんの前で、ゴム飛びか何かをして、遊んでいる時、見覚えのある、軽自動車の手動で開けるタイプの車の窓がゆっくりと、ぎこちなく開いた。
助手席には母がいた。
運転席は誰だったかおぼえていない。
母のひざの上に何かがいる。
『ねずみ?』
想像以上にちっちゃくて、私はハムスターか何かと身間違えた。
あまりにも小さ過ぎる。
真っ白な雑種の仔犬。
ホントにひょろひょろ。
小さい頃は、あまり覚えていないのだけど、名前は❝パロ❞
もう、ウチに来た時からすでに名前は、ついていた。
母がつけたらしい。
由来は知らない。
聞いたかも知れないけど、覚えていない。
パロちゃんは、体に見合ってご飯をあまり食べない犬だった。
好き嫌いも多い。
犬なら普通は、ガッツいて食べるであろうけど、あんまりガツガツ食べていた記憶がない。
そんなパロちゃんを見かねて、おばあちゃんは、いつも鶏のささみを炒めてご飯と混ぜてあげていた。
缶詰はペディグリーチャムしか食べない。
でも、何とかかんとか成犬にまで成長した。
パロちゃんは、おとなしい····
泣かない····いや、泣けない犬だった。
多分泣き方を知らない?
たまに、口を開いたと思ったら、変な声。
〘うぉん〙
みたいな···
そのパロちゃんは、何故かおばあちゃんにだけは、強きだった。
おばあちゃんにだけは、いっちょ前に
〘うぁん〜〙
と言える。しかも、歯を剥いて。
ご飯をあげるのも、散歩に行くのもおばあちゃん。
怒りの矛先もおばあちゃん。
パロちゃんは、母が、大好き。
母が仕事から帰ってくると、母のお尻ばかり追いかけてたなぁ。
母が入院してた頃は、さすがのパロちゃんも、もう老犬。
そろそろ呆けが出てきた頃。
3ヶ月スパンで入退院を繰り返していた、母はパロが母を忘れて寂しがらない事に寂しさを覚えていた。
母が亡くなったあと、パロちゃんも後を追うんじゃないかと、思ったけど、パロちゃんは、そんなこと露知らず。
痴呆に磨きがかかっていった。
母が亡くなり自宅に戻った時は、わかっていたのか、何か目が血走っていたようだ。
母が亡くなり、遺されたおばあちゃん、パロちゃんは、息子の家に住むことになった。
パロちゃんの徘徊する足音が、うるさくて追い出された。
私が一人暮らしを始めた文化住宅に、大家さんに頼み込んで、住まわせてもらった。
認知が酷くなっていったパロちゃんは、あれだけ食べなかったのに、何でもバカほど食べるようになっていった。
でも、全然太らない。
パロちゃんが、母のところへ逝くまではあちこち遊びに連れて行った。
きっと本人は喜んでない。
ある時、流行りの港町に行って、岩壁から海に落ちた。
当時の元旦那が飛び込み助けた。
けど、たくさん水を飲んだであろうパロちゃんは、数日後には母の元へ旅立った。
呆気ない犬生。
私の懺悔の一つ。
あちらでは母と再会して、楽しんでワンと吠えている事を信じている。
