体育館の壇上にA子は立っていた。


生徒会長の挨拶ってやつだ。


相変わらず緊張の色も見せず淡々と挨拶を終えた。


僕はここ最近までA子のこういう部分しか知らなかった。
それゆえ、近頃二人で会話してるのが不思議な感じだ。



壇上で全校生徒の視線を集める姿は、放課後に紙飛行機を飛ばしてた彼女とはまるで別人の様に思えた。


続いて欠伸が出そうな校長の挨拶が終わると


生徒はそれぞれの教室へ帰された。


教室では皆すっかり夏休みモードにスイッチが切り替わり、
恋、海、そしてセンター試験なんかの話題でざわついていた。


それを横目に僕は一人窓から空色の水を湛えたプールを見下ろしていた。


眩しく乱反射した光が瞳に射し込み思わず瞼を細めた。


「なーに、黄昏てんの?」


そう言って僕の肩を叩いたのはA子だった。
先ほどの壇上とは違った笑みを見せる。

「別に黄昏てるわけじゃないよ。何というか、いよいよ夏休みだなーって。」


「そうだね。退屈な夏休みが始まるね。T君にとっては。」


「ははは。余計なお世話だよ。て言うかみんな受験勉強だし、忙しくなるよな。A子もそうだろ?」


「そうだね。受験勉強しないとなー。
だけど、それ以上に…何て言うんだろ?
大事に過ごしたいなって思ってる。高校生活最後の夏休みだし。」


A子は僕のとなりに腰掛けながら話した。

「ねぇ?今日の午後暇なの?」


「いや。どうせ何もないよ。」


「もう。そんな言い方してないでしょー?そんなにあたしって嫌味っぽいかな?」


「まあ時々ね。で、今日の午後どうかした?」


「うん。とりあえずまた後で話すよ。」

「何だよ。早く言えよ。気になるじゃん。」


「ちゃんと後で話すから。あたし生徒会で少しだけ遅くなるから駐輪場で待っててよ。」


「えー?まじで?」

「別に良いじゃない。どうせ暇なんでしょ?」


「あのなー。そういう言い方が嫌味っぽいんだろー?」


「なによ?『どうせ』ってのは先に自分で言ったんでしょ。まあ、とにかく待っててよ。」


「うーん。仕方ないな。あんまり待たせたら先に帰るからな。」


「大丈夫!そんなに時間かからないから。」


そう言ってA子は教室を出ていった。