6弦から1弦まで張り替えた。



真夜中のギターを6畳間に鳴らす。



扉が開いた。



「また弾いてるの?」



「うん。」


「あんた今年卒業でしょ?ギターなんか弾いてて大丈夫なの?」



「わかってるよ。」


少し間を置いて母が続ける。



「前にも言ったけど音楽で食べていこうだなんて考えないでね。
そんなの一握りの世界なんだから。
せっかく進学校に入ったんだから大学行きなさいよ。」



「…」



「とにかく遅いからもう寝なさい。明日も学校でしょ?」



「…わかった。おやすみ。」



短い溜め息をついて、
ギターを壁に立て掛けた。



横になって天井を見つめる。



一握りか…。



でもその一握りってのは、
どれもこの世の中から出てきたものであって、
それが自分である可能性だって十分にあり得る。



そんな理屈は今の自分にはとても無意味に思えた。



壁にもたれたギターはどこか悲しげだ。



月明かりがその影を伸ばす。



例えば誰かが、
「なるようになるさ。」
そんな風に僕に言うのなら、


僕は
「なるようにしかならない。」のが堪らなく嫌だ。



今を、未来を変えてみたい。



まるで映画かドラマみたいなこの台詞は、未だどこかリアルじゃない。



瞼を閉じれば朝だった。



何だか寝た気がしない。



例外無く7:30に鳴ったであろう目覚まし時計は8:13を指して沈黙していた。



血圧が一気に上がる。



慌てて支度をして、母とはあまり会話をせずに玄関を出た。


外は暑かった。



けたたましく蝉が叫びをあげる。



夏なんだな。



一学期最後の日、
僕は全力でペダルを踏んだ。



僕は早くA子に会いたかった。