明日が締切のレポート早く片付けなきゃな。
夏が始まる前の湿った風を振り切って、駆け込んだ図書館。
しかし、何となく見つけた推理小説にやる気を持っていかれている。
いや、何となくじゃない。
昔あいつが話してた本だ。
表紙には月明かりに照らされた列車が描かれている。
放課後のチャイムが鳴り響く。
ため息混じりに小説に栞をはさみ、
できればもう少し早く取りかかるべきだった本題に移ろうとした。
そのとき不意に話しかけられた
「へぇ~。T君、小説好きなんだ。意外だね。」
いつの間にそこにいたんだよ。
声の主は同じクラスのA子。
彼女は生徒会に入っていて放課後遅くまで残っているのは以前から知っていた。
なんでもそつなくこなすタイプでいつも教室で笑顔をふりまいていたが、どことなく人を寄せ付けない。
そんなオーラを持った子だった。
「いや、別に。」
僕はなぜか無愛想に答えてしまった。
それに気にする様子もなくA子は話を続ける。
「この小説好きな人あたし知ってる。」
思わず無言になってしまった。
この子はきっと知ってるんだ。別に隠してたわけじゃないが。
「T君、Nと付き合ってたんでしょ?」
はっきり言う奴だ。
「まあ、たった1ヵ月だったけどね。結局振られちゃったし、もういいんだよ。」
「ふーん。まだ好きなんだ?」
こいつは俺の話聞いてないのか。いや、むしろ心を見透かしているようだ。そう思えた。
「いちいちうるさいな。さっさとあっち行ってくれよ。レポート仕上げなきゃいけないんだ。
それにA子さんも生徒会忙しいんだろ?」
「ううん。生徒会なんて放課後残ってても特別何があるってわけじゃないの。
だから暇なの。あと…。」
あと?
「別に『さん』とかつけなくていいから。」
「どういうこと?」
「だから別に呼び捨てでいいって言ってんの。」
「う、うん。」
「さてと、あたしもレポート仕上げちゃお。」
「え、終わってないの?
A子さんってしっかりしてるから、もうとっくに仕上げてるのかと思ってた。」
「ううん。いつもあたし取りかかるのギリギリだよ。
だからあたしもT君もそんなに変わんないよ。あと、その『さん』いらないってば。」
少しはにかみながらA子が答える。
思えばこんなに近くでA子の笑顔を見るのも、会話をするのも初めてかもしれない。
不思議な気持ちになった。それは決して嫌な気持ちではなかった。
「隣座っていい?どうせ空いてるでしょ?」
「はいはい。どうせ空いてますよ。」
ぶっきらぼうに答えつつも、
僕は照れて顔が赤くなるのを隠すのに必死だった。
話しすぎたようだ。レポートは終わりそうにない。
だがそれも悪くない。なぜかそう思えた。
A子は隣で鼻歌を歌っている。
すこし間の抜けた音を口ずさんだ時、目が合った。
彼女は僕を見ながら恥ずかしそうに笑った。
続く(かも)。
。。。。。。。
別に暇なわけじゃないですよ(笑)
こんなシチュエーションに憧れるのって俺だけ??