件のビデオボックスに到着し、あらかじめ指示されていた通り、禁煙ルームに入った。
久しぶりのビデオボックス。懐かしい。
ゴロゴロしながら本を読んでいたら、いつのまにか約束の時間を15分ほど過ぎていた。
やっぱりイタズラだったのか。それならそれで良いや。
気分を変えてAVでも観ようとすると、DMが来た。「メイクに時間がかかって遅れちゃいました。〇〇号室です。鍵を開けて待ってます」
イタズラじゃなかったのか。いや、まだ分からない。〇〇号室に入ろうとしたら鍵がかかっていて気まずいことになる可能性もなくは無い。
〇〇号室のノブを掴んで引くと、ドアが開いた。本当に鍵がかかっていなかった。
部屋に入ると、薄暗い照明の下に彼女(彼?)が座っていた。髪の毛は栗色でセミロング、黒いワンピースに黒いカーディガン、黒いニーハイ。ちょっとゴスっぽい雰囲気。ピンサロかよって感じの薄暗さなので、暗闇マジックはあるけれど、顔立ちはなかなか整っていて、SOPHIAの松岡充に似ていた。
挨拶もそこそこに舐めてもらった。なかなか気持ち良かった。正直、先日のニューハーフヘルスの男の娘の方がテクはあった。まぁ、向こうはプロだから当然か(笑)
ヌイてもらった後、軽く世間話をした。
彼女は、普段はビジュアル系バンドで活動していて、休みの日だけSNSで男を漁っているらしい。
「美形だからボーカルでしょ?」と訊くと、「ベースだよ。ボーカルはもっとカッコイイよ」とのこと。
バンド活動以外にはバイトなどしていないらしく、けっこう人気のバンドらしい。さすがにバンド名までは教えてくれなかったけれど、ビジュアル系が好きな人なら知ってるかも、とのこと。ただ、その分、休みがあまり無く、ライブばかりやっているらしい。
「ストレス溜まると、おちんちん舐めたくなるんだよね」と彼女は言った。
「かわいいのに、どうしてお金とらないの?お金払ってでも舐めてほしいって奴たくさんいると思うよ」
「昔はお金もらったりしてたけど、お金もらっちゃうと、態度が悪くなる人がいるから嫌になっちゃって。みんなお兄さんみたいに丁寧で優しい人なら良いんだけどね」と彼女は言った。「それに、三十代になると、お金もらうのもきびしくなってくるの。若くてかわいい娘がたくさんいるからね」
女装界隈にも色々あるんだなぁ、と思った。
ちなみに、彼女はバイで、女の子とセックスすることもあるらしい。けれど、割合としては男の方が好きなので、女の子とセックスした後は無性に男のポコチンが舐めたくなるらしい。
「女の子にはあんまり困ってない。バンドやってればファンの女の子とエッチすることもあるし。でも、男の子はSNSで募集しても変な人からしかリアクションないこともあるし、欲求不満になりがちかな」と彼女は言った。
「GLAYのBELOVEDって曲、知ってる?」
彼女が訊いてきた。
「知ってるよ」と俺は答えた。「世代だもん。良い曲だよね」
「サビで、やがて来るそれぞれの交差点を、てフレーズがあるでしょ?わたしも、どこかで人生を間違えたんじゃないか、なんて思ったりすることがあるんだ。女装なんかして男の子のおちんちん舐めてさ。きっと結婚なんかできないし、両親に孫の顔も見せてあげられない」
俺は何て言えばいいか分からず、「良い曲できそうじゃん」と軽口を叩いた。彼女は笑って「そうだね」と言った。
ビデオボックスを出た後、原付で帰宅しながら、GLAYの「BELOVED」を聴いた。
「やがて来る それぞれの交差点を 迷いの中 立ち止まるけど それでも人はまた歩き出す」というサビ。
彼女の言葉について考えずにはいられない。
バイだと、男の娘になる以外の人生について考えてしまったりするのだろうか。あるいは、彼女がミュージシャンだから、そんな風に感じてしまうのだろうか。
帰宅し、一応、お礼のDMを送ると、すぐに返信が来た。「お兄さんとだったらホテルでゆっくりしたいな(笑)」とのこと。光栄です。