宇多田ヒカルの「FINAL DISTANCE」にはちょっとした美しい思い出がある。


まだ俺が妻と結婚する前、付き合ってひと月だか、ふた月くらいの頃、妻のリクエストでディズニーランドに遊びに行った。

俺は女の子とデートでディズニーランドに行くのなんて久しぶり過ぎて、めちゃくちゃはしゃいだことを覚えている。妻も、ろくでもない奴とばかり付き合っていたので(詳細は書けない)、真っ当なデートらしいことができて嬉しそうだった。


朝から晩までディズニーランドを堪能して、閉館と共に直行バスで帰った。


バスの中で、妻はお土産の袋を抱えて「楽しかったね」と言った。「絶対また一緒に来ようね」


バスの中では、イヤホンを片耳ずつはめて音楽を聴いた。宇多田ヒカルの「FINAL DISTANCE」が流れて、「あ、この曲、めちゃくちゃ好きなんだよ」と言って隣を見ると、妻は窓ガラスに寄り掛かって眠っていた。

俺は「FINAL DISTANCE」を聴きながら、妻の寝顔を眺めた。

窓の外では暗闇を切り裂くように街灯が流れて行き、その光が妻の寝顔を照らしていた。

淡く、微かな光が、暗闇に飲み込まれないように、必死で妻の顔を照らしているように見えた。

知り合ったばかりの時、妻は泣きながら「幸せになりたい」と言って泣いた。ずっと暗闇の中にいた妻が初めて光を求めるように流した涙だったのかもしれない。

俺に出来ることは何だろう、と妻の寝顔を見ながら考えた。

その時、俺は妻と結婚することを決めた。

ずっと妻のそばにいて、妻を守ろうと思った。

実際にプロポーズするのは、付き合って半年くらい経ってからだけれど。


と、まぁ、ここまでは美しい思い出。

結婚して10年以上経った今となっては、過ぎ去りし過去、という感じかな(笑)


とにかく、宇多田ヒカルの「FINAL DISTANCE」を聴くと、その時のことを思い出す。