先日、うちの母親から「ちょっと相談したいことがある」とLINEが来た。

俺に相談なんてよほどのことだと思い、すぐに話を聞くと、弟のことだった。


俺の弟は両親と一緒に実家で暮らしている。年齢は忘れたけれど、確か、俺の四つ下くらいだから、34歳だと思う。弟の年齢なんていちいち覚えてないよな(笑)

弟はパンを焼く工場の契約社員として働いている。彼女はいない。多分、童貞だと思う。風俗に行くような奴でもないし。


その弟が仕事を辞めたがっているらしい。仕事自体はそこまでキツくないようなのだが(夏は暑くて地獄らしいけどね)、人間関係があまり良くないらしい。

年長の従業員が多いので、口調がキツくてバカにされたりするようだ。「お前はバカだから要領が悪い」だとか、「小学校からやり直して来いバカ」だとか。確かに、弟はあまり器用なタイプではないけれど、そこまで言わなくてもいいだろう、と思う。

休日には年長の従業員に連れ出され、アキバや中野にフィギュアを見に行ったりしているらしい。弟はフィギュアやアニメが好きなので、まぁ、分からなくもない。ただ、俺としてはあまり好きな付き合い方ではないな、と思う。

年長の従業員からしてみれば、出来の悪い後輩をかわいがっているつもりなのだろう。キツイ口調も愛情のうち、というか。虫唾が走るね。


「嫌ならさっさと辞めればいいじゃん」と俺が言うと、母は「そうなんだけどさ、パパは辞めるなって言うのよ」と言う。

どうやら、弟はそのパン工場の会社で今は契約社員だけれど、頑張れば正社員に昇格させてやる、と言われているらしいのだ。

「頑張ればって、何を?」

「さぁ?それは私も知らないわよ」

「そもそも、アイツはその会社で正社員になりたいの?」

「なりたくないみたいね」

何だそりゃ。

父親としては、正社員になれるかもしれないならチャンスを逃すな、年長の従業員は言葉はキツイけれどお前をかわいがってくれているんだ、だから辞めるな、という考えらしい。

相変わらずだなぁ、と思った。

父親も弟も相変わらず過ぎて笑ってしまった。父親は相変わらず弟の人生を支配し、弟は父親に逆らえない。


「それにね、」と母は言う。「あの子も、正社員にしてやるって言われてる手前、辞めるって言い辛いみたいなのよ」

やれやれ。一体、俺にどうしろと言うんだ。

「今なら退職代行サービスもあるし、人間関係がストレスなら無理に続けない方が良いんじゃない?ストレス溜まって俺みたいになったらどうするの?」

「そうよね。そう言ったんだけど、パパがなかなか納得しなくて・・・」

母は少し言葉を濁したけれど、おそらく、父親は俺のような状態は特殊なケースだと思っているのだろう。本当にうちの父親らしい考え方だ。


結局、本当に弟が仕事を辞めたくても父親を説得出来ないなら俺も一緒に話すよ、と言って、話は終わった。

やれやれ。なぜ仕事を辞めるのに父親の許しが必要なのか。馬鹿げてる。


弟に何か連絡しようかと思ったけれど、やめた。アイツが決めることなんだから。


そんな感じ。実家は実家で大変みたいだ(笑)