顔、首、腕、手の近くの空間に、体に向って動いて来る3次元物体の視覚刺激を受けると、顔、首、腕、手に対する触覚も同時に発生する。これは、体性感覚と視覚の両方に活性化する二重様相ニューロンが実現している。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))


 「第1章で見たとおり、腹側前運動皮質はF5野とF4野によって形成されている。F4野は腹側前運動皮質の後側-背側部にあり、下頭頂小葉、とくに腹側頭頂間野(VIP)から強い求心性信号を受け取る。皮質内に微小な電気刺激を与える実験から、首や口、腕の動き(腕の動きは、体そのものや空間内の特定の位置に向けるもの)がF4野で表象されることがわかっている。さらに、F4ニューロンの大半は、運動行為を行っているときと、感覚刺激を受けたときの両方で活性化することが、個々のニューロンの測定からわかっている。この結果を踏まえ、こうしたニューロンは二つのグループに分類された。「体性感覚ニューロン」と「体性感覚-視覚ニューロン」で、後者は「二重様相(バイモーダル)ニューロン」とも言われる。最近では、「三重様相(トリモーダル)ニューロン」という、体性感覚と視覚と聴覚の刺激に反応するニューロンが記録されている。
 F4野の体性感覚ニューロンのほとんどは、体の表面の触覚刺激によって活性化する。軽く触れられたり、肌を何かがかすったりする感覚さえあれば、活性化するのだ。体性感覚受容野は顔や首、腕、手にある。受容野はかなり広く、何平方センチメートルにも及んでいる。
 バイモーダルニューロンは体性感覚面では、純粋な体性感覚ニューロンと似ているものの、視覚刺激、とくに三次元の物体に反応する。ほとんどは、動いている物(とりわけ、体に向って動いてくる物)に反応しやすいが、静止している物に強く反応するものも、あることはある。こうした特性に加えて、F4バイモーダルニューロンの機能面でたいへん興味深いのは、視覚刺激には刺激が触覚受容野の近くに現われたとき《だけ》しか反応しない点だ。もっと正確に言えば、視覚受容野であって、かつ体性感覚受容野の拡張部分を形成すると思われる。空間の特定部分に刺激が現れたときにしか反応しないのだ。
 図3-1に、F4ニューロンの体性感覚-視覚受容野を示してある。注意すべきは、視覚受容野は必ずそれぞれの体性感覚受容野の周辺に位置する点だ。視覚受容野の形や大きさは異なり、厚みはほんの数センチメートルから40~50センチメートルに及ぶ。このため、サルの前腕をこすったときに発火するニューロンは、実験者がサルの前腕に手を近づけて視覚受容野に入れたときにも活性化する。もしこれが信じられなければ、自分の頬に手を近づけてみるとよい。指が実際に頬に触れる前にそこに指があることを感じるだろう。まるで、頬の個人空間(つまり皮膚空間)が、頬を取り巻く視覚空間に及んでいるかのようだ。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第3章 周りの空間,紀伊國屋書店(2009),pp.68-69,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:二重様相ニューロン,バイモーダルニューロン)