　今日のＪＴ杯決勝戦は藤井が糸谷の善戦に苦労はしたものの、やはり勝ち切り、ＪＴ杯２連覇を果たした。２年連続の参加トーナメント総なめは相変わらず十分以上の蓋然性がある。

　藤井の先手となり、『ああ。。。これで藤井の優勝確率は９５％かな』と感じた将棋ファンは１００万人くらいはいるだろうが、糸谷は得意の変則右玉＋金の運用で頑張った。先攻を藤井に許したところではあっさりと攻め潰されそうな感触があったが、１図の飛車出が渾身の勝負手である。

　常識なところでは△４五金と当たりになっている銀を躱しそうなものだが、▲２一歩成△４六金となると後手の金が重いか。金を捨て殺しにして飛車を捌いて勝負という発想はＡＩは肯定しないかもしれないが、人間目線ではなかなか良い判断だと思う。

　勝負手が奏してＡＩ評価値が糸谷側に傾いた２図からのやり取り、局後の感想が興味深い。本譜は△３三竜と成銀を除去したため長期戦になったのだが、成銀除去は▲４五桂を防ぐためのアクションだから、△４五角は当然考えられる。私もリアルタイム観戦中はそう読んだ。▲７八金打と△６七角成を防げば今度は安心して△３三竜として後手玉は安泰である。

　局後の感想戦で△４五角が盤面に示されると、藤井は上記の変化が先手不利であるからと即座に述べ▲５七金打を示した。『はぁ～そこに金を打つんですか～』　凡人は溜息を漏らすしかない。糸谷は△６七角成▲同金寄△５八銀の強攻でどうかと考えつつ、この局面で先手の反撃手段が相当にあり、かつ△６九銀成が詰めろではないとして守備に回ったという意味のことを述べていたようだ。藤井はこれもほぼノータイムで▲８五桂打を示している。自分なりに調べてみると、先手の勝ちである。この桂を打たれてしまうと△３三竜は▲７三桂成に△同玉と出来ず（王手飛車がある）、といって△６九成銀は詰めろではないので後手玉は挟撃を食って必至になる。何と思考の行き届いた人なのだろう・・・恐れ入るばかりである。

※なお、へぼの私は２図で△５六歩と突きたいな、と読んでいた。▲５八歩△５七歩成▲同金△５六歩▲４六金△５七歩成の局面をどう評価するかだが、この時点では先手玉はかなり安全なので、桂馬をタダでもらった先手の攻めが相当に勝るようである。後手は評価値上はよくなったのかもしれないが、玉が不安定なので良さを維持するのは相当な難度となっている。

　白眉は３図の局面である。この直前、糸谷は△２六角▲５七金右△５九銀（金に逃げられると質駒になるだけなのだが？）▲７八金△２五角（▲２七香車があるが？？　※「ここ数手は一手も当たってないです」と佐藤康九段は苦笑いと実況サイトにはあるが、いかに異筋の佐藤康光といえどもこの手順は思いつくまい）▲８九飛と進めての△４八角成である。田楽刺し回避のため必須の角成と思われた・・・ところで強烈な寄せが発現した。この瞬間、先手玉は金銀三枚の囲いの中にいて、相手の反撃を考慮する必要がない。さらに銀が質で落ちているため、先手が戦力切れになる懸念はない。そこを見切っての▲４六金△同歩▲３三銀。

　△４一竜と逃げるしかないのだが、▲５九飛と質の銀を奪い、△同馬（飛車を回収せずに受ける方がいいのだが・・・人間には無理）▲４二銀打と竜の捕獲が確定すると藤井の勝勢は明白だった。

　１４９手の応酬があった早指し棋戦で考慮時間を１分余せる。どれだけのエンジンがこの人には積まれているのだろうか？　このエンジン、まだ出力が上がりそうで人外の水準なのだが、ご本人が至って誠実な好青年なので、全将棋ファンは痺れてばかりいるのだろうなぁ。

改めて恐れ入りました：藤井聡太、JT杯２連覇