長引く痛みについて悩んでいるとき、「脳のここが活動しているから、ここが痛みの原因です」といった説明を耳にすることはありませんか。

MRIやfMRIなどの脳画像で、鮮やかな色で染まった脳の様子を見せられると、なんだか納得してしまうものです。

しかし、最新のペインサイエンス(疼痛科学)の視点から見ると、実はその画像の見方には注意が必要かもしれません。



「痛み」専用の領域なんて存在しない?

これまで、脳の「島皮質」や「帯状回」といった特定の場所が光る様子を、「ペインマトリクス(痛みのマトリクス)」と呼び、そこが痛みの発生源だと考えられてきました。

ところが、近年の緻密な研究によって、驚くべき事実が明らかになりました。

それは、痛みのときだけでなく、珍しい音を聞いたり、驚くような光を見たりしたときも、脳の同じ場所が同じように光るという事実です。

つまり、画像で光っている場所は「痛み」専用の場所ではなく、脳が環境の急激な変化に気づき、「これは重要な刺激だぞ!」と注意を向けようとする「防衛のための共通システム(サリエンスネットワーク)」だったのです。



画像はあくまで「結果」であり「原因」ではない

脳の画像で特定の領域が光っているのは、脳が「いま、この刺激は自分にとって重要だ」と判断した結果に過ぎません。

それを「ここが壊れているから痛いんだ」と断定してしまうのは、少し性急すぎるかもしれません。

また、同じデータでも、解析をする研究チームが違えば「これは異常だ」という結論も変わってしまうほど、脳画像の解釈は複雑で、まだ発展途上の分野でもあります。

「画像に映ったからこれがすべて」と思い込むことは、痛みという複雑な現象を、あまりに単純に切り取りすぎている可能性があるのです。

 

脳という「守り神」の働きを信頼する

脳が痛みのときに活発に動くのは、決して「故障している」からではありません。

むしろ、身体に迫る脅威を察知し、自分を守ろうとする脳の「防衛システム」が、必死に働いている証拠だとも言えます。

脳は機械のようにどこかが壊れて動かないのではなく、その時々の環境に合わせて、常に自分の身体を守ろうと調整を続けているのです。



断定せずに、身体の声に耳を傾ける

痛みという主観的な体験を、画像という客観的なデータだけで「これが正解です」と断定することには、どうしても無理があります。

大切なのは、画像を見て「どこが悪いか」を追い詰めることよりも、「今、神経系がどんな風に警戒していて、どうすれば安心できるか」を、患者様と対話しながら探っていくことではないでしょうか。

もし今の痛みがなかなか解決せず、検査の結果ばかりに不安を感じているなら、一度その「断定」から少しだけ離れてみてください。

脳は、強引に修理されることよりも、穏やかで一貫性のある優しい信号を受け取ることで、過敏な防衛モードを解除していくのかもしれません。

あなたの痛みは、画像に映った色付けされた領域だけのものではありません。

もっと全体的で、ダイナミックで、何よりあなたという人間そのものが日々感じている「生きるための反応」なのだと、私たちはそう考えています。

 



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