あの一件以来、夕紀と二人で会うことが多くなっていった。

もちろん夕紀と会うのは決まって人目のないどちらかの家、図書館などであった。

自分自身が誰を求めているのかはわからなくなっている。

始めは軽い気持ちで身体を求めていった夕紀。

長い間片思いを続け、想いが届き始まった莉子。

俺はどちらも愛してしまっていた。

冷静に考えると都合の良い思考でさえも、俺は考えることに疲れ、そのままの状況をダラダラと続けてしまっていたのだ。

俺は夕紀と莉子のことを数人に話していた。

後輩の彩、友人の美佳、佐織、進也。

彼らはすべてを知っている。

俺は予備校を抜け出して、少し離れていた場所でいつもの様に彩に相談を持ちかけていた。

「俺は・・・どうしたらいいんだろう・・・。」

「知らないよ、自分で決めてください。」

「何だこのやろう・・・冷たいじゃねぇか!お前もやっちまうぞコラ!」

「・・・・・・いい・・・よ?」

このとき俺は初めて彩の気持ちに気付いた。

俺がこんな人間だと知っても尚、俺に思いを寄せてくれる人がいた。

そんな彩のいじらしさに俺は衝動を抑え切れなかった。

まとまらない思考と、犯してしまった罪の重。

それらから逃げ出すかのように俺はついに自暴自棄になった。

―ここまで来たら行くところまで行ってしまえ―

俺は彩と行為に至った。

外の冷たい風も、お互いの火照った身体で暖め合う。

衝動だけの愛のない性行為。

夕紀も始めはこうだったのかも知れない。

俺はこの時もう既に誰も傷つけずに事を解決するのは不可能だと本能で悟っていたのかもしれない。

帰りが遅いことで心配していた友人たちを誤魔化し、家に帰ると後悔を打ち消すかの如く俺は布団に潜り込んだ。

次の日の学校。

学年の中で一人はいるだろう事情通のサチにニヤニヤされながら俺は話しかけられた。

「ねぇねぇヨッタン、そういえばこの間の日曜夕紀の家から出てきた所見かけたけど、何してたの?」

俺は一瞬で凍りつく表情を隠すことができなかった。
俺は完全に頭が真っ白になっていた。

どうすればいいのか全くわからず、動揺し、考えることもままならない頭で必死になっていた。

俺はどうすればいいのか。

どうしたら一番いいのか。

俺がとった行動









夕紀の手をやさしく解いた










そして俺は夕紀と向き合い









夕紀を強く抱き締めた。

夕紀の驚きが俺にも伝わってくる。

次第に夕紀の緊張は解け、彼女もまた、俺の背中に手をまわした。

そのまま俺と夕紀はベッドの上で重なり、何度も互いを求め合った。

俺は莉子を愛している。

だがその間、彼女のである莉子のことは完全に頭から飛んでいた。

いや、そのときだけではない。

夕紀と会っている間、俺はいつも莉子のことを忘れていた。

なぜだかはわからない。

夕紀が俺にとってどんな関係なのか。

莉子とこのまま同じように付き合って行けるのか。

夕紀の家を出た後、俺は悩んでいた。

この時既に、俺は戻れない道を歩き出していることも知らずに。
次の日曜、俺は夕紀の家へ向かった。

正直俺は彼女にどんな顔をして会えばいいかわからなかった。

だが夕紀はいつもと変わらない笑顔で俺を迎えてくれた。

その笑顔に安堵した俺は、夕紀の服装に目を向ける。

以前夕紀にどんな服装が好きかと聞かれたことがあった。まさに夕紀はその時俺が答えた服装をしていたのだ。

そんな彼女の好意に俺は抑えきれないほどの愛おしさと、いじらしさを感じてしまった。

その日俺が夕紀の家に向かう口実、それは

「また勉強見てあげるから、また一緒に勉強しないか?」

というもの。

勉強も程ほどにして、俺は窓の外を眺めつつ他愛もない話を始めた。

次第に話題のペースは夕紀の方に行き、いつしか俺は外を眺めつつ夕紀の話に相槌を打つのみとなっていた。

するとどうだろう。窓の外すぐに見える大型書店に友人の浩が向かっているではないか。

ただ夕紀の家は、その書店に向かうには反対方向にあり、こちらを向かれる心配もないのだが・・・・。

と思った矢先の出来事。

浩が急に振り向いた。

俺はとっさに身を隠し、夕紀は話を途切れさせた。

「なんでもないから、話続けて?」

怪訝そうな顔をしながらも彼女は話の続け、いつしかペースは元に戻っていった。

しかし俺の頭は見られたか、見られていないのか。隠れたのは果たして正しい判断だったのか。と頭の中がいっぱいだった。

夕紀の話が一段落したところで、俺は何かに急かされるように彼女の家を出ることにした。

私物を鞄に仕舞い込み、ドアに手をかけたその瞬間の出来事だった。

!?

夕紀が俺を後ろから抱きしめている。

とっさの出来事に俺はパニック状態になり、しばらく硬直していた。

「まだ・・・まだ一緒にいたい・・・」

その言葉に俺はどうしてあげるのが一番良かったのだろうか・・・。