そうか、そういうことか。

なるほどね。

そーゆー扱いされたとなると、俺も黙っちゃいらんねぇ。

そんな思考が頭をよぎり、俺はサチに対して「協力する。」とだけ伝えていた。

そうして俺は、莉子という彼女がいながら、夕紀を何とかカジから遠ざけ、自分の物にしてやろうと考えていたのだった。

動機は今思えばよく分からないが、俺のプライドと、意味不明な独占欲からであろう。

極めて自己中心的で、他人のことなど一切考えもしない醜い性格を自覚する事もないまま、俺はまた次の休日夕紀の家へ向かった。

そしてまた体を重ねたのだった。

が、しかし俺は苛立ちを感じていた。

そう、俺に抱かれている今も、こいつは別の男を頭の中で描いているような気がしてならなかったからだ。

腹の中から何かドス黒いものがこみ上げてくるような感覚に見舞われ、ついには怒りさえ感じていた。

俺は行為を止め、服を着て「帰る。」と一言言い残して帰ろうとした。

夕紀は必死に引きとめようとした。

俺にはなぜそうするのかわからなかった。

あいつは同じクラスのカジを想ってるはずで、俺に嫌われても何とも思わないだろうと決め付けていた。

しかし、未だ尚待って!といい続ける夕紀に、俺は一言言い放った。



「お前はカジが好きなんだろう?気にすんなよ。もーヤメだ。」



「え・・・?誰から聞いたの?」



「サチだよ。じゃな。」





そう言い残して俺は帰った。

帰る途中、俺は不快感に見舞われていた。

それは浮気に対する罪悪感などではなく、単なる苛立ちによるものだった。

俺が帰る瞬間何か言いたそうだった夕紀も少し気にはなっていた。

そうして、俺の浮気生活にはピリオドが打たれた。かのように思われた・・・。

その日俺は予備校で受験勉強をしていた。

嫌でたまらなかった受験生活も、とうの昔に半分に折り返していて、少しは気が楽になっていた。

ただ、女性関係においては暗雲がたちこめたままだった事はいうまでもない。

少し疲労感を感じ、小休止を挟むために俺は下の階の休憩室へと向かった。

休憩室にはいつも誰かがいるような状況で、それは食事を摂っている者や、勉強などせずたむろっている輩もいる。

かつて自分もその後者だったのだが・・・。

そんな話はさておき、校内の自動販売機でコーラを買い、休憩室へと向かった。

するとそこにはサチいたのだった。

休憩室には大きい机が二つあり、その片方にサチ、もう一方にはひとつ下の学年の奴らが座っていたので、サチの方の机へ俺はついたのだった。

昼間の話題を掘り返されるのではないかと内心ビクビクしていたのだが、サチにはそんな素振りもなく、話題は彼女の恋愛の話になっていった。

どうやらサチは同じクラスのカジを狙っていて、どうにも上手く行っていないらしい。

話だけ聞いていれば上手く行ってそうな気もするのだが、サチはイマイチ納得いっていない様なのだ。

あまり理由を話そうとしないサチだった。

もちろん俺も詮索するつもりはなかったし、深入りするのは御免だった。

自分のことをまず何とかしなければならない状況で、人の世話ばかり焼けるほど器用でもないし、いい人でもなかったからだ。

しかしサチはそんな俺の心の内などどこ吹く風、話し始めたのだった。

この時俺は逃げるようにしてでもその場を去ったほうがよかったのかもしれない。

サチはこう言ったのだった。

「夕紀もね、カジ君のこと狙ってるらしいの。やっぱ勝ち目無いかな~。」

・・・・・・・?

まさか夕紀が?

「ねぇねぇヨッタン、聞いてる?」

曖昧な返事をしながら俺は深く考え込んでいた。

結局俺は遊ばれていただけ・・・・なのか?

尚もサチは話を続ける。

「だからヨッタンには手伝って欲しいんだよね、本当は夕紀と何もないわけではないんでしょ?」

その場は笑いながら何とか切り抜けたものの、鋭いサチならばもう気付いているだろう。

昼間のあの一言も、完全に知っていながらわざと演技をしていたに違いない。

・・・なるほど。

この時俺は今とは全く正反対の答えをサチに述べてしまっていた。

こうして俺は更なる泥沼の深いほうへと足を進めていっていた。


「ねぇねぇヨッタン、そういえばこの間の日曜夕紀の家から出てきた所見かけたけど、何してたの?」

サチのその一言が俺を凍りつかせた。

必死に後ろめたさを隠し、言い訳を考える。

一瞬が永遠に引き伸ばされ、様々な言い訳が俺の頭の中に浮かぶ。

固まっていたのはほんの数秒だったと思うが、俺は数十分にも感じられた。

俺は思いついた言い訳の中で一番差しさわりが無いことをサチに述べた。

「いや、あいつに学校で勉強教えてただろ?

ただあいつ受験まで間に合いそうになくって家でも教えてたんだ。」

鋭いサチは俺の表情の変化を見逃さなかっただろう。

内心俺は次に何を言われるのかが怖かった。

サチは口を開いた。

「ふ~ん、そっか。わかったよん。」

そう言い残して笑顔で去っていった。

内心ホッとした俺だったが、サチとは付き合いの長い俺にはわかっていた。

サチは全てを悟っている。

これから今までと同じ事を続けるのであれば・・・また誰かに見られることがあれば・・・

今度はきっとサチも見逃さないだろう。

そしてその日、予備校にて俺は信じられない事をサチの口から聞くのであった。