54.長い1週間
週末、男はこんな状況にも関わらず会いたいと言ってきた。
男がセックスを望んでいたかどうかは今となっては謎だ。
男の彼女になってから、初めて男と会わない週末を送った。
<何か食べたいもんあるか?>
<どっか行きたいとこあるか?>
バーテンダーの彼からのメールが、嬉しくて堪らなかった。
彼氏なんて存在しないかのように。
<どこでもいい。エビが食べたいな>
仕事の合間に彼と時間差を潜り抜けながら毎日メールで会話をした。
眠りについて、朝起きると話の続きが待っている毎日。
<エビ?!素材で言うなよ!困ったちゃんやな!>
そんな朝の目覚めはよかった。
彼と過ごす時間に思えた勤務時間。
勤務時時間はとても早く過ぎてゆくのに、明日の為に眠る夜はとてつもなく早くくるのに、過ぎ行く1日がながかった。
過ぎ行く1週間が長かった。
これって、浮気っていうのかな・・・。
「せのり、土曜やっぱ働いてくれへんか?」
「嫌ー!」
「頼む、派遣集められへんくって」
「その派遣の中の一人でも私はあるんですけど・・・」
「頼む」
断れなかった。
今自分がしようとしている事が弱みに思えたからかもしれない。
押し切れなかった。
責任感とかそんなものは持っていない。
そんな立派な精神があれば、遠の昔に定職についている。
正直何に対してか誰に対してか解からないけれど、「罪悪感」という文字が頭に浮かんだ。
<土曜ね、仕事入った>
<お前最悪やな!で、何時に会えそうなん?>
<定時には絶対帰る。だから・・・5時に終わって、6時に家着いて、8時かな>
<おい、その計算おかしくないか?7時はどこいった?>
<いいじゃん、色々あんだよ!馬鹿!!>
<まぁいいけど、遅れんなよ。俺待つの嫌いやから>
懐かしいと思った。
A型の彼の予定をO型の私が崩しまくる。
「お前最悪やな」彼の言葉がくすぐったい。
「待つのは嫌いやから」そう言いながら、ずっと待っていてくれた。
私が連絡を絶ってからも、彼はずっとメールを待っていてくれたのだろうか。
私は不貞腐れて、土曜出勤した。
半分本当で半分は嘘。
機嫌が悪いフリをしなければ、仕事に集中できないくらい浮かれてた。
休みの彼はずっとメールを送り続けてくれる。
まだお昼だというのに、終わったかと聞いてきたり、行く店を決めたと報告をくれたり。
あまりに沢山のメールが逆に、まだ1時間しか経っていないのかと思わせた。
「馬鹿!詐欺!エロハゲ!最低!」
私は上司を罵った。
「馬鹿じゃないし、金は払うし、エロイがハゲてないし、最高の快感を与えてやれるよ」
「もう!冗談はいいよ!何で私残業してんのさ」
気付けば時刻は6時だった。
「声かける暇さえなかったな~、忙しかった、忙しかった」
「何か恨みでもあるわけ?」
「男くらい少しくらい待たせとけよ」
「ムカつく!今すぐ送って!じゃないともうこないから」
明らかに仕事量の少なかったこの日、何故自分で気付かなかったのかと悔しかった。
上司にからかわれていることにも。
<ごめん、仕事今終わった>
<急いで、俺待たないよ>
<待っててね>
待っててね・・・。