19.彼からの告白
「昨日は楽しかったね。途中、寝ちゃってごめんね。私、朝弱くて、いつ家に帰ってきたんだろうなんて思っちゃった。ホント、ごめん」
私は、彼に敢えて朝の記憶はないと強調して言った。
私は知らない、何も知らない。
キスなんて、彼女のいる彼とキスなんて、とんでもない。
彼がどう思ったかなんてことは解からない。
「楽しかったな。お前が寝てる間、何度襲うと思ったか」
本気なのか冗談なのか、彼の言葉に弄ばれる。
「うそ!あなたは紳士だもん」
この二人の記憶は消さなきゃいけない。
たとえ真実であろうとも、消さなきゃいけない事実なんだ。
私の言葉の意味が解かるよね・・・。
お願い、嘘をついてください。
「そうでもないよ。寝顔、可愛かったし」
彼は言うつもりなんだろうか。
彼がキスをしたことを打ち明けたら、私たちは一体どうなってしまうんだろう。
「彼女のいるあなたが、好きでもない子に手はださないよ」
私は彼の目にどのように映ったんだろう。
動揺を隠せない私は、彼にどんな風に伝わったんだろう。
「うそうそ、何もしてないよ」
彼がついた嘘は、少しだけ私を傷つけた。
でも、よかったんだ・・・そう、思いなおした。
彼のキスは、いつもと変わらない日常が何処かの国のおとぎ話へと変えていった。
そんな夢をみたこともあったな・・・と。
いつもと変わらない朝が来て、いつもと変わらない夜を越えてゆく。
今夜も同じ夜が始って、私は明日を迎える為に布団へ入った。
携帯アラームのセットをしようと携帯を手に取る。
まさにその瞬間、携帯は着信メロディーを響かせた。
彼からだった。
キスをなかったことにした私だけれど、彼への想いは変わらない。
嬉しかった。
だけど、その嬉しさは悟られちゃいけない。
「はぃ」
「もしもし、はぃじゃないやろ?」
「もしもし」
「何してた?」
「寝るトコやった」
「ちょっといいか?」
「うん」
「誤解せずに聞いて欲しいんやけどな」
「何?」
「俺、お前の事が好きや」
「ありがとう」
「いや、誤解せずにとは言ったけど、本気やねんけど」
「うーん・・・ありがとう」
「・・・・まぁいいや」
「で?」
「あぁ・・・もぅいいや。彼女がいる俺が何言うても仕方ないもんな。けど、伝えたいと思ったから」
「うん」
「俺、初めて一目惚れしてん。初めて会ったあの日に。ずっと、この気持ちがなんなのか解からんかった。今でも解からへん。彼女も勿論好きやし、別れる気もない。そやけど、俺はお前が好きや」
「私はどうしたらいいの?」
「そうやな・・・ごめん。返事なんてせんでえぇよ。伝えたかっただけやから」
「うん。多分、あなたは彼女を愛してると思うよ」
「あぁ、それは自分でしっかり考える。できれば傷つけたくないけど、正直でいたい」
「うん」
「ごめん、おやすみ」
「おやすみ」
彼からの突然の告白だった。
だけど、何かが違う。
彼女のいる彼からの告白。
付き合う気なんて全くなくて、私をどうしたいわけでもなくて、望みのない期待もない告白。
私って一体なんなんだろうな・・・。
彼に好きになってもらいたい。
そんな儚い夢はあっさり叶ってしまった。
だけど、彼はその次の夢を切り裂いていった。
彼の勝手な告白によって、私は好きでいることさえも失われてしまったのだろうか。
私はこの先、何を願えばいい。
何に向かって頑張ればいい。
私は、実質フラれたのかもしれないな。
ズルイ。
私だって、正直でいたい。
だけど、やっぱり私は、彼女がいるそんな彼を好きでいることに抵抗を感じてしまう。
迷惑でないのなら・・・ずっと好きでいさせて欲しい。
私も、何も望まないし期待もしないから。