1.出会い | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

1.出会い

「ね、行きたい店あるんやけど一緒に行かん?」

「お!珍しいな、せのりが行きたいなんて言い出すなんて」

「友達の店やねんけど・・・」

友達の店やねんけど・・・

何処に行くと聞かれて何処でもいいと答える私が、行きたいなんて言い出したのは、そこに好きになり始めてる男友達がいたからだ。

誰にもこの気持ちは打ち明けていない。

だって、自分でも、多分その時は好きだなんて気付いていなかったから。


ウキウキしながら、その男友達のレストランバーへ向かった。

「お、来てくれたん。ここ座って。あんまり相手できひんかもしれんけど」

その男友達に案内されて、8席あるバーのカウンタの端に友達二人並んで座った。

バーテンダーの彼 厨房へ消えていく男友達を目で追う視線に、水とメニューを運んできたバーテンダーが飛び込んできた。

この男すごい無愛想。

何処見てんだろう。

目をつむったように視線を落とす彼は、私たちのオーダーを待っていた。

その男がふっと私たちに向かって手のひらを見せた。

え?何??

すると店の奥のボックス席から「すみません」と言う声が聞こえてきた。

すっと呼び寄せた客のもとへ向かうバーテンダーを私は目で追った。

何で判ったんだろう。

何もみてないような態度で突っ立ってるだけのように見えるのに。

無愛想にオーダーを聞き、私たちに見向きもせずカクテルを作り始めた。

無表情に作るカクテルを私はずっと出来上がるまで見つめ続けた。


「決まった?料理も食べてな。おいしいから」

男友達が一段落付け、カウンタに戻ってきた。

「あんたが作ってくれるん?カクテルも?」

「カクテルはまだ店に出せへんから練習中。また毒見してや」


楽しい、お酒が飲めない私は結局烏龍茶でその場をしのいでいるのだけれど、ウキウキ加減にほろ酔いだ。

だけど、お酒を飲む場でお酒が飲めないと言うのは本当に詰まらない。

徐々に馬鹿な話でその場は盛り上がってくる。

意味が判らないよ。

何処で笑うんだ?

とりあえず笑っとけ~。

愛想笑いが私の集中力を拡散させる。

そこに誰かの視線を感じた。

その視線の元を辿ると、無愛想なバーテンダーに辿りつく。

軽い会釈の影に、ふっと彼の笑顔が見えたような気がした。


カクテルを作る彼、グラスを洗う彼、オーダーを聞く彼、レジを打つ彼、思い出せる彼の数は私が彼に視線を奪われた数だ。

そして、そんな見とれている自分を否定した数でもある。

「聞いてる?」

男友達が私を引き戻す。

話をしながら、今彼は何をしているの?見ていたくて堪らなかった。


「カクテル作っていいぞ~」

厨房の奥から店長さんが、男友達にカクテルの練習をするようにと声が掛かった。

気付くと店は閉店しており、お客さんは私たちだけだった。

「すみません」

「お友達なら大歓迎だよ」

「カクテルの毒見してよ」

BGMが切られ、薄暗かった店内が少し明るくなった。

何か放課後と言う言葉が浮かんでくる。

こういうのドキドキする。

気持ちいい

「こちら、俺の先輩。2年付き合ってる遠距離の彼女がいるんですよね~」

彼女いるんだ・・・。

彼の照れた顔を始めて見た。

彼にカクテルの作り方を教えてもらう男友達を眺めながら、小1時間記憶を失った。

と、言うか何も考えてなかったのかもしれない。

この時の事、思い出せない。


「そろそろ帰ろうか。送ってくよ」

無愛想なバーテンダーの彼を目で追いながら、私は男友達の車に乗り込んだ。

そして、男友達が私の友達を気に入っているのに嫉妬し、バーテンダーを諦めるフリをした。




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