2.好きなのは誰?
「バーの常連」そんな言葉の響が当時、妙にかっこよかった。
お酒が飲めないと、巡り来ないご縁だ。
店長さんに、そう言われ始めるまで私はそのレストランバーに通った。
仕事帰りに、待ち合わせ場所に、遊び場に、機会があれば利用した。
店が好きだったのか、男友達を本当に好きになってたのか、バーテンダーの彼が好きだったのか・・・私はどうしてもこの時の気持ちを整理しきれない。
揺れていた。
本当は、もう恋していたのかもしれないけれど・・・。
ある日、開店時間と共にバーへ遊びに行った。
1人で。
何故なんだろう。
友達を誘いたくない。
1人で行きたいんだという奮い立った意気込みだった。
何に意気込んでたんだろうか。
誰かに会いたかった・・・?
そうなんでしょうって自分に問いただしてもYESって答えてくれない。
ただ、知ってたのは男友達の休みの日だったということだけだ。
店の戸を開くと、いつもよりも少し明るめの店内に静か目のBGM、テーブルを拭くバーテンダーの彼、開店直後という雰囲気が広がってた。
相変わらず無愛想で、カウンターに誘導してくれる。
「バナナジュース」
「バナナジュース?!」
「悪い?ウチ、お酒飲めへんもん」
「飲めへんのに、ずっと店通ってたん?」
「だって、ソフトドリンクここ多いやん」
「変な子や」
「あはは、あなたでも笑うんや!」
「え、俺そんなに無愛想?」
「え!?もしかして気付いてないん?」
「よく、言われるけど・・・俺、いつもニコニコ上機嫌やしな」
「自分こそ変な子やん」
「ここのソフトドリンクはうまいやろ!全部手作りやもん」
「うん。って、嘘~パックなんちゃうん?」
「アホ言え!よ~みとけよ!」
バナナジュースの作り方を教えながら、私に笑顔をくれた。
無愛想に気付かないなんて嘘。
そんなに笑えるんだもん。
この人、きっと私と同じ痛みを持ってる、そう直感した。
笑い顔の陰に悲しい目が見え隠れしてた・・・。
私は、学生時代を不登校で過ごした。
病気だったわけでも、イジメにあってたわけでもない。
ただ、学校が嫌だった。
一言で言えば、人が信用できなかった。
上辺だけの人間関係にうんざりしてた。
そんな人間に、自分もいつしか上辺だけで付き合うようにしてた。
私は誰にも気付かれないように、同じ様に隠してる。
「誰かと待ち合わせ?」
だろうな、だろうな、そう思うだろうな。
私は誰を待ってるんだ?私が聞きたい。
「もう直ぐあいつ来るで」
「え?」
「あ、違ったんや、ごめん、余計な事言うて」
「え?」
「店長!」
そう言いながら店に駆け込んできたのは、男友達だった。
「店長まだ来てないよ」
「そうなんや、どうしようかな」
少しオシャレした男友達は、いそいそと時間を気にしながら店長を待っていた。
「来てたんや。俺、これからデートやねん」
「あ、そう」
「そっけないなー。応援してよ」
「はいはい、頑張ってきなよー」
「何、その言い方。あぁ、もういいや、俺行くわ、ほな」
何、あれ・・・。
一瞬の出来事に何がなんだか・・・。
「ちょっとショック?」
「何で?」
「いや、別に」
「何?」
「あいつの事好きなんじゃないの?」
「あぁ、好きだよ」
あれ、あれ?私、何言ってんだろう?
私は男友達が好きだったの?
「やっぱりな。そうじゃないかと思ってたよ」
「そんなに判りやすい?」
「そりゃもう、好きですって目が語ってるよ」
「ふ~ん」
「いいんじゃない?」
「いいの・・・かもね・・・」
「ん?」
「別に」
私は一体何がしたかったんだろう。
急な展開に頭が馬鹿になったか?
それとも、ただの上辺だけの会話だったのか?
そうかもしれない。
少し、残念だったのかもしれない。
同じ目をしていると思った私の目を、見抜けなかった彼はみんなと同じだと思ったのかもしれない。
この日から、私は男友達が好きだという日を過ごす事になる。