古代ローマの時代から現代までの会計・財政にまつわる興味深いエピソードがもりだくさん。ざっくり要約するなら、帳簿(ちゃんと資産・負債やお金を管理すること)は、権力者にとっては資源を有効活用するには便利な反面、財政(財務)運営の責任を問われかねない、やっかいな代物だった。それゆえに、覇権国家が帳簿から遠ざかり、財政悪化の責任を問われて(または財政悪化を背景に戦争などで敗れて)、やがて別のものに取って代わられるという歴史は何度も繰り返されてきた。
僕にとって最も面白かったのは、ベルサイユ宮殿で有名なルイ14世を扱った、6章。彼は一時期までは1日2回、2時間以上かけて大臣から送られてきた国政に関する報告書に目を通し、特に財務報告にはとくに注意を払った。ルイ14世を支えた会計顧問・コンベールは、膨大な量の情報を処理し、国王に手際よく報告するために、国家の会計帳簿のほかに、テーマ別に100冊ものスクラップブックを管理していたという。コンベールはまた、国王が手軽に持ち運べるように、ポケットサイズの帳簿も作成した。
この小さな「ルイ14世の帳簿」は、フランス国立図書館に所蔵されている。ぜひ見てみたい。また、コンベールの工夫は、今の日本にもヒントがあると思う。各省や局・課と多岐の分野・領域にわたり、また、一般会計、特別会計などの複雑な会計や財政運営の状況を、議員や国民にいかに分かり易く伝えるか、また帳簿に基づいたコミュニケーションを図るかは、今も大きな課題なのだから。
しかし、帳簿は国家運営の悪いところも含めて、はっきりと伝える(伝えすぎる?)。実際、コンベールは国王に対して、宮殿建設に金がかかりすぎるとか、オランダとの戦争はさらに物入りで、せっかく膨らんだ国庫が空っぽになりそうだとか、不満を表明していた。「国王は口やかましい財務総監にいささか辟易し始めていた―そして、自分のポケットに収められた、単刀直入に赤字を示す帳簿にも。」(p.171)。
コンベールの死後、ルイ14世は財政顧問役を任命せず、携行用の帳簿も打ち切りする。「1715年にルイ14世が死去すると、フランス国家は破綻した」。あのベルサイユ宮殿を見れば、誰もが豪華絢爛さには圧倒される。本当の金持ちとはこういうものなのかと。しかし、そのルイ14世も亡くなったときは、多額の負債と、財政規律を軽んじる負の遺産を残した。「そして効果的な会計システムのないまま、75年におよぶ財政危機と最後の決算がフランスを待ち構えることになる」(p.173)。
本書は、会計や世界史の知識はなくても、気楽に読める(数式や難解な専門用語も出てこない)。自分のウチの家計簿さえ適当な僕にとっては、まったく耳の痛い話が多いのだけれど、会計に興味が出る画期的な一冊だと思う。
- 帳簿の世界史/文藝春秋

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