2007117日、水曜日の午後…。

面会を約束していたメインバンクの決定責任者は、もう一人かつて自社の融資を担当していたベテラン職員を連れだって本社事務所の扉を開けた。

顔を会わせて最初の挨拶は、事務所の窓から見える景色を見ての感想のような何だか表面的な変な会話をした。

応接用に使う社長室に通して、事務職員からお茶が出て…、いよいよ本題に入るように座りなおした二人は、「今、お父さんと、お母さんに会ってきまして…」と自分がまったく予期していなかったことを話し始めた。

この二人が言うには、メインバンクの預金口座にある両親の預金を借入金の返済に充ててもらうようお願いして、「お二人ともそれを承知してくれましたので…」とのことだった。

ひとまず、この両親の預金で借入金の一部を返してもらった上で、メインバンクとして最大限の協力をします…と言った。

この段階では両親に何も聞いてない自分としては、何とも話しようがなく、とりあえずは特にその後のことを話すこともせず、話を打ち切った。

「今後もメインバンクとして全面的に協力していきますから…」と、この言葉を繰り返していたことを覚えているが、自分の頭の中は怒りでいっぱいだった。

すぐに両親の所へ行き、話を聞いた。

認知症が進行してきている父親は、もちろんそんな話の詳しい判断はできるはずもなく、対応した母親は「もう仕方がないから…」と、メインバンクからの要求を呑んだとのことだった。

個人で始めた事業の経営者である以上、もしもの時には自分の持っている預金であれ資産であれ、すべてを注ぎ込む覚悟はある。

でも、それは金融機関に取り上げられて使われるのでは意味がない。

これでは、最悪の事態になった時の最終的な決断すら自分たちではできなくなってしまう。

両親からの話を聞いて、すぐにメインバンクに連絡したが、すでに手続きは進んでいると言う返答で、母親は「もう、いいんだ…」と言った。

この段階で、自分のメインバンクに対する考え方は大きく変化した。

不信感でいっぱいになった。もう信じられない…、と思った。

いずれ自分たちは、持っているものをすべて取り上げられていくのだろうという思いが湧き上がってきて、自分の頭の中では、身ぐるみはがされる前に自分から法的整理する…、という選択肢が一気に持ち上がってきた。

 

翌日の118日木曜日、会計事務所の先生と会うことになっていたので、前日起こった出来事について話した。

選択肢の一つとして、法的整理についても意見を聞く。もしそれを考えるのであれば、弁護士を紹介するとのことだった。

119日金曜日の午前中には、年末商品・おせち料理の撮影があった。前年の失敗もあり取り掛かりが遅れてしまった年末販売なのだが、自社店舗においての販売は行おうと思って動いていた。

また、この11月から本社の周りの3店舗で使える特別クーポン付カードの販売が始まっていた。

自分自身は、前日の金融機関との話をするまでは、この段階での法的整理はまったく考えていなかった。年末に向けての売上獲得に向けての手をあれこれと打っていた。

それが、突然両親の預金を返済に充てるという信じられないことが起こって、自分の精神状態は急速に異常な状態へと変化していった。

この週末は、事務所で一人考えていた…。

自分はどう動くべきなのか…。

 

そして、週が明けた月曜日に、決定的なことが起こったのだった…。