Heart Of Two
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1-2

「着いたよ。ここが私のマンション。早く!」

半ば、強引に手を引っ張られて連れられて行く。

玄関のドアを開き、部屋に入った時に何か違和感を感じた。何もないのだ

いや、何も無いといっても家具に電化製品、ベッド、テレビなどは置いてある。

そう、まるでモデルルームのようで、人が住んでいる気配がない。

ふと、気になり気がつかないようにクローゼットを開けてみた。

やっぱり、洋服は何もなかった。

「ばれちゃったかなぁ。」

後ろから女性の声が聞こえた。声自体は怖くないが、先ほどまで話していた、少し酔ってテンションが高い人とはまるで、別人のような雰囲気が漂っていた。

さすがに、少し不安を感じていた・・・。

「ここの部屋は、私が借りているんだけど、普段は誰も住んでいないの。」

頭の中を整理することができなかった。

誰も住んでいない?何でおれを連れてきたのか?

考えても答えは出ずに、不安だけがしだいに大きくなっていった。

「君のことは、気になっていたんだよね。あのお店の中で一番変わっているというか、心の中がみえないというか、とにかく直感でこの子がいいなって思ったの。あ、もちろん顔もいいからだよ。で、何で君をつれてきたかというと私と契約をしてもらいたくて。つまり、私のところで働いてみない?」

「あの、話が全く見えてないんですけど・・・。」

「ごめん、ごめん。ちゃんと話すね。まず、お金の話。一日あたり3万。期間は3ヶ月。休みはないから、90日ちゃんと働いたら270万だけど、300万でいいや。」

「仕事は、私が紹介する女性と1日単位で90日、日替わりで一緒に過ごすだけ。

但し、相手の言うことは絶対。あなたは、すべてに従って過ごさなければならないけどね。

それには、精神的に強くなければならないし、苦痛も伴うかもしれない。」

必死で自分の中で心を落ち着かせて、おれは口を開いた。

「それって、男を買う女性がいるから、その人の相手をしろってことですか?」

「そうそう。飲み込み早いじゃん!やっぱ、私が見込んだとおりだな。うん。

じゃあ、内容も分かっているみたいだから、明日からでもいい?」

「え、急にそんなこと言われても、まだやるっても言ってないし。

大体、まだあなたのことを信用していないんですけど。」

「え~、そうなの。じゃあ、3日時間あげるからさぁ、教えた番号に連絡して。

私も忙しいからさぁ、できるだけ早く返事してね。」

おれは、部屋を出て、再びタクシーにのり、家に帰った・・・。

<<Heart Of Two>>


1.Prologue

開いた窓からの肌寒い秋口の涼しげな風で目を覚ました。

隣には、いつものように知らない女が背中を向けて眠っていた・・・。

ベッドから起き上がり、煙草に手を伸ばした。

火をつけ、立ち上る煙に目をやりながら頭痛に耐えながら昨日のことを思い出していた。

仕事が終わり、自分の店で飲み・・・。

やっぱり思い出せず深く考え込むのを諦めた。

シャワーを浴び、着替えたが、まだベッドに横たわっている子は起きる気配がない。

おれは、車のキーを手に家を出た。

7時を回ったぐらいだろうか、少し薄暗い中近所のコンビニに寄って、コーヒーを買い、

再び車を走らせた。

今日の仕事は2件、午前中は32歳の主婦、午後は23歳のお金持ちのお嬢様。

そう、おれはお金を貰い、自分の体を売っていた。

18歳で初めてこの仕事をしたが、その時から、戸惑いは微塵もなかった。

きっかけは、3年前Bar。

働いていた時に、ある一人の女性が声を掛けてきた。

「ねぇ、お店が終わった後、時間ない?君、かわいいからさぁ。

ずっと、声掛けようと思っていたんだけどね!ねっ、いいでしょ?

仕事終わったら、この番号に電話してね。」

たまにお店にきている女性で顔はなんとなくは知っていたが、話したことはなかった。

・・・ただ、断る理由もなかった・・・。

店が終わり、先ほどもらった番号に電話をしてみた。

「もしもし・・」

「仕事終わったんですけど・・・」


「あ、ほんとにかけてきてくれたんだぁ。ありがと。じゃあ、迎えに行くね。どこにいるの?」

「店出たとこですけど。」



「わかった。今から行くね!」

外で煙草を吸いながら待っていると、目の前に1台のタクシーが止まりドアが開いた。

「お待たせ。とりあえず乗って。」

言われるがままに、タクシーに乗り込んだ・・・。

ネオンが瞳に眩い夜の街を通過し、いつしか辺りは、車からのライトの明かりだけで走っていた。

「あの、どこに行くんですか?」

「私の家だよ。もうちょっとで着くから待ってて。」

この女性が何を考えているのか全くわからなかったが、そんなことはどうでもよかった。

変わらない毎日、変わらない自分、変わらない世界・・・

それが、今日、まさにこの時間は、

自分の中の、もやもやを解決してくれそうな気がしていた。

そんなことを考えていると、タクシーはあるマンションの前で止まった。