イラクで内戦勃発!? | 世界日報サポートセンター

イラクで内戦勃発!?

イラク情勢/現実味帯びる大規模内戦

スンニ派反乱軍対シーア派民兵
治安機関に根張る敵性分子


 イラク第二の都市バスラの警察署長として五月から務めているハッサン・サワディ将軍の表現によれば、部下の警察官四人のうち忠誠を当てにできるのは一人だけ、他の三人の忠義心はシーア派の民兵組織、例えばバドル旅団、マハディ軍、それに南部湿地帯を拠点としてイランの影響が強いイラク・ヒズボラ等に向けられている。サワディ将軍の前任者も、部下の半分はさまざまな政党で内職をし、中には「暗殺を手助けする者までいた」と指摘したものだ。


 米国CIA(中央情報局)の監督指導を受けて新たに設立されたイラクの情報機関から、軍隊や警察、さらには国防省や内務省まで、所属する兵士や職員の中に「敵性分子」がひそかに根を張り巡らしてしまった。その背景には、サダム・フセイン体制の下で秘密警察と情報機関を一緒にしたような「ムハバラート」に従事していた約五万人の男女の大半が、米軍によるイラク解放の直後に行方をくらましてしまった事実があり、多くはスンニ派の反乱勢力と結託しているとみられる。


 シーア派の勢力には、例えばバドル旅団は一万二千人以上の兵員を抱え、シーア派の政党であるイラク・イスラム革命最高会議(SCIRI)の軍事部門だ。SCIRIの指導者の多くはイラン亡命中に、イランの革命防衛隊から資金を供与されていた。


 バドル旅団のライバルであるマハディ軍は、過激な宗教指導者ムクタダ・アル・サドル師が、不信仰者の米国と闘うためには、信仰に根差す新たな軍事力が必要だと説いて設立した。今や一万人の兵力を擁するが、同軍は一年前、中部の聖地ナジャフと、バグダッド郊外のサドルシティで、米軍相手に熾烈(しれつ)な戦闘を演じた。その後は休戦状態が維持されてきたが、最近、サドル配下の武装集団がイラク正規軍を待ち伏せ攻撃し、米国軍の新たな介入を引き起こした。


 バドル旅団、マハディ軍という二つのシーア派民兵組織は装備が行き届き、ロケット臼砲(きゅうほう)、迫撃砲、重火器や、お決まりのカラシニコフ・ライフル等を保有しているし、よく訓練されている。先ごろバスラで発生した英国軍とマハディ軍の衝突は、イラク中央政府が南部の親イラン系の軍事・宗教指導者たちを掌握できていない事実を如実に物語っている。多くの報道が、シーア派勢力はスンニ派反乱勢力の宣戦布告にもかかわらず「注目すべき自制力」を示している、と報じてきた。しかし「実のところ、すでに内戦が進行中だ」とイラク出身で大手国際企業の会長を務める人物は指摘した。


 イラクのジャラール・タラバニ大統領は、クルド人を代表する二人の指導者の一人だが、スンニ派の反乱に対抗するには、クルド人とシーア派住民による軍事組織を強化すべきだと考えている。「国の治安部隊が反乱鎮圧の訓練を終えるのを待っていれば、その間に反乱勢力は力を強めるだろう」(同大統領)。同時に、これは双方に外国からの志願兵が群がってきて、全面的な内戦状態に入ることでもある。


 バスラの大学教授(複数)はマスコミとの非公式のやりとりの中で、「シーア派南部の分離は、荒唐無稽(むけい)なシナリオではない」と指摘した。南部にはイラク人口の過半数が居住し、同国の石油確認埋蔵量の70%がある。いわばクウェート並みの規模は小さいが豊かで自足できる国を誕生させることは可能なのだ。


「近隣諸国巻き込む」とサウジが警告

 エジプトのホスニ・ムバラク大統領は最近、接見した米国国会議員に対して、「米国では彼らを反乱兵と呼んでいるが、彼らは元イラク正規軍の兵士たちであって、われわれ皆の忠告を無視して米国が解雇してしまった連中なのだ」と批判した。


 ヨルダンのアブドラ国王はイスラム世界の穏健化を志向し、イスラム、ユダヤ教、キリスト教の和解のための世界的なキャンペーンに取り組んでいる。しかしイラク問題のおかげで、なかなか一歩が踏み出せないようだ。


 サウジアラビアのアブドラ国王もサウド・アル・ファイサル外相を米国に送って、警鐘を鳴らしている。ファイサル外相は報道陣に、「イラクが分裂の方向に走っており、内戦から近隣諸国を巻き込んだ地域紛争に発展しかねない」と指摘した。さらに天然資源をめぐる利害衝突が近隣国を、より大きな戦争に駆り立てる可能性もあると警告した。イラクの近隣とはクウェート、サウジアラビア、ヨルダン、シリア、トルコそしてイランの六カ国だ。


 米政府は「イラクをあきらめない」と呪文(じゅもん)のように唱えている。しかしブッシュ支持者の中でも、戦争遂行に不安を募らせ始めた。ブレア英首相の前イラク特使ジェレミ・グリーンストック卿は言う、「イラクが地域閥や民兵組織のモザイクに分解しようとするのは、住民が安全保障を求める性(さが)によるものだが、そうした傾向が顕著になったら、有志連合はイラク駐留を再考すべきだ」。英国人特有の控えめな言い回しをはいでしまえば、グリーンストック卿が言わんとするのは、「船が沈み始めたら救命ボートを使うべきだ」という意味だ。


アルノー・ド・ボルシュグラーブ(UPI特別編集委員)


★この記事は参考になった!という方、ご協力お願いします。 ⇒ 人気Blogランキング


★まずは試読からはじめよう! ⇒ 世界日報試読受付センター