小川榮太郎著「約束の日 安倍晋三試論」(幻冬舎)を読む | 世日クラブじょーほー局

世日クラブじょーほー局

世日クラブ・どっと・ねっとをフォロースルーブログ。

約束の日 安倍晋三試論/幻冬舎

¥1,575
Amazon.co.jp

 
 本書は、第二次安倍政権誕生を画するべく上梓されたであろう。その意味で本書は所期の目的を既に達している。

 只今現在、アベノミクスのアナウンス効果による円安株高を受けて、朝野をあげてドンちゃん騒ぎ気味だが、この勢いのまま今夏の参院選を制し、絶対安定多数を確保して、いよいよ先回果たし得なかった「戦後レジームからの脱却」という“本丸”に攻め登るという算段だ。

 そこで、もう一度本書を通じて、志半ばで失脚とあいなった第一次安倍政権の意義と価値を確認し、今次安倍政権に国民としていかに臨むべきかを考えてみる。

 前回、安倍氏を首相の座から引きずり下ろしたのは、直接には潰瘍性大腸炎という病気だが、その前の第21回参議院選挙における歴史的惨敗おいて、既に進退極まったというべきだ。しかし、この選挙を迎える直前までの通常国会で成立した重要法案を本書に基づいて列挙すれば、

まず6兆3千億の財政健全化を達成した「平成19年度予算案」
「憲法改正の為の国民投票法」
「在日米軍再編特措法」
「教育関連三法」(地方教育行政の組織及び運営に関する法律改正案。学校教育
法改正案。教職員免許法等改正案)
「イラク復興支援特別措置法改正案」
「社会保険庁改革関連二法」
「年金時効特例法」
「公務員制度改革関連法」
そして、それ以外の施政方針演説の具体化例は、
「再チャレンジ支援総合プラン」策定
「教育再生会議第一次報告書」
「日本経済の進路と戦略」閣議決定
「アジア・ゲートウェイ構想」最終報告
「イノベーション25」閣議決定
「『二十一世紀環境立国戦略』に向けた提言」提出
「経済財政改革の方針二〇〇七」閣議決定
など

 どうであろう。これは目を瞠る実績ではないか。小川氏が言うように、「華麗とも歴史的ともいえる政治的成果を引っ提げれば、(参院選)に圧勝して当たり前」のはずだった。

 しかし「安倍の苦闘も、勝ち取った政治的成果も知る国民はほとんどいない」国民が知っているのは、「松岡(農水相)始めとする閣僚たちの不祥事」、「年金記録問題の杜撰な処理」それらを持て余す「安倍の『頼りなさ』だった」のはご記憶のとおり。

 これはなんなのかといえば、本書冒頭にある、「安倍の葬式はうちで出す」と息巻いた朝日新聞社幹部の発言に象徴されるように、日本国憲法を頂点とする戦後レジームの既得権勢力が、正攻法では勝てぬと見て、下手すれば自らの威信失墜というリスクさえ冒してまで安倍総攻撃を仕掛けた。まさに、安倍を引き摺り降ろさずんば止まじ。そのえげつなさたるや、執念とも怨念とも。これでは、読者も愛想尽かそうというもの。ところがどっこい、朝日読者の大量キャンセルがあったなど寡聞にして聞かない。「どーでもいーですよっ」って、だいたひかる出てきちゃいそう。

 果たして、「日本人の自己回復の戦いに、共に挑戦しようと訴えかけた総理が、その理念や業績とはまるで無関係なバッシングで引きずり降ろされ、国民はその仕組みと仕掛けとに気付きもしなかった

 嗚呼…。

 内閣支持率は、右肩上がりに高支持率をたたき出し、目下、飛ぶ鳥落とす勢いの安倍内閣に、件の戦後レジーム派も迂闊には手を出せまいし、また、経済の好調は先方も望むところ。しかし、虎視眈々と確実に狙いを定めていよう。本書の内容をよくよく腑に落とし込んでおきたい。

 ところで、3月15日に行われた安倍首相によるTPP交渉参加表明の記者会見の内容に対して、安倍応援団である評論家の三橋貴明は、

『抽象論』と『交渉力』に溢れた、まるで経済産業省の官僚が書いた作文(実際、そうなのでしょうが)のようで、率直に言って失望せざるを得ません

と自身のブログで書いた。また、先般の予算委員会において質問に立った民主党の篠原孝代議士は、ポイントを突いた含蓄のあるTPP反対論を展開しておられた。その中には、「安倍首相の保守思想とTPPは相容れない」との指摘もあった。当方も思わず聞き入ってしまったが、対する安倍首相は、通り一遍の答弁の印象を否めず、心許ないかぎりだった。
 
 もっともTPPは利害関係が複雑に絡み、一面的な理解では判断しづらいのは確かなのだが、首相がいろんな意見を十分に吟味した上で政治決断したというなら、それはそれで今度は、国益をかけて交渉を頑張ってほしいが、安倍氏としては交渉参加はまあ既定路線だったろう。ただ、好事魔多しだ。自ら足を取られ、本丸道遠し…とならないようにしてもらいたい。