テレビでお正月討論番組をやっていた。
「新世代が語る日本のこれから」みたいな感じの番組であった。
20~30代の若手の知識人が10人ほど集まって、政治、経済、社会、文化について議論していた。
面子としては宇野常寛、荻上チキ、萱野稔人、飯田泰之、猪子寿之など、左翼やリベラルやリバタリアン的市場原理主義者ばかり。
議論の内容は「国家は余計なことをし過ぎ」「国家は邪魔」「欧米や中国は素晴らしい、日本には夢が無い」「クリエイティブ!イノベーション!グローバリズム!」といった、しょーもない有様。
若者に身の丈に合わない夢を見させて、日本をミスリードする浅はか極まりない議論であった。


しかし、流石に名の売れた論客たちだけあって、知識量もディベート・スキルも相当なレベルだ。
果たして、保守派の中に20~30代で彼らに遅れをとらない程度の議論をやれるだけの人材がどれくらいいるだろうか?
頭を捻ってみても、わずかに柴山桂太氏と岩田温氏の名前が浮ぶだけだ。

左右のオピニオン誌や文藝誌を眺め比べてみても、明らかに左派の方が若手の論客が充実している。



「別に年齢で別ける必要はないだろう」と言われる方もいるかもしれない。
確かに、現役で大活躍されているご高齢の保守論客もたくさんいる。

だが、やはり人間歳をとれば、思考力も衰えるし、新しい情勢に対する感度も鈍る。
谷沢永一氏、小室直樹氏、中村粲氏、名越二荒之助氏など近年、世を去られた保守論客も多い。

今はまだ人材不足などまったく気にならないかもしれないが、10年後、20年後、30年後を思うと、どうしても不安な思いがわきあがってくる。


渡部昇一氏は82歳、西部邁氏は73歳、中川八洋氏は67歳、櫻井よしこ氏は66歳、田母神俊雄氏は64歳、佐伯啓思氏は63歳、青山繁晴氏は60歳・・。
保守派の代表的な論客の顔ぶれを見ても、決して若いとは言えない。



もちろん一方で優秀な若手の論客もいないわけではない。

先に名前を挙げた柴山桂太氏は37歳、その友人である中野剛志氏は40歳、竹田恒泰氏は36歳、岩田温氏にいたってはまだ28歳だ。
京都大学の佐伯啓思氏のゼミには非常に優秀な若手の人材が集まっているという話も聴く。

それから40~50代までいけばそれなりに人材はいる。
八木秀次氏、三橋貴明氏、伊藤貫氏、富岡幸一郎氏、西村幸祐氏、兵頭二十八氏、新田均氏、関岡英之氏、遠藤浩一氏、中西寛氏、潮匡人氏、佐藤健志氏、櫻田淳氏などなど。

それでも絶対数から見れば、やはり左派の方がかなり多い。


政治家や政治運動の指導者となれば、保守派も決して左派に遅れをとっていない。
保守派は学問の世界よりも、政治や行政の世界の方に流れていく傾向があるのかもしれない。

戦後の日本の大学、学会は左派に牛耳られ、極めて偏向した世界であった。
そんな世界で昇進しようと思えば、どうしても左に偏らざるを得ない。


しかし、果たしてそれだけが学問の世界が左派だらけになってしまった原因なのだろうか?
どうしても、それだけが理由だとは思えないのだ。



はっきり言って、
IQの高い人材を思想的にひきつけるだけの魅力が戦後日本の保守派には乏しかったのではないだろうか?


戦後日本の左派は膨大な思想書や学術書を著し、マルクス主義からポストモダンまで、最先端の流行思想をリードしてきたのは、常に左派であった。
現在においても社会学やサブカルチャー批評などで、エリート大学の多くの学生たちを魅了しているのは、左派やリベラルである。


IQの高い人材を思想的にひきつけるには、それなりの思想的な深みやスケールの大きさや学術的な高度さが無くてはならない。
戦後日本の保守派の果たしてそれがあっただろうか?


戦前の日本は、思想的にも学術的にも右派が左派を圧倒していた。
だが、江藤淳氏や西尾幹二氏の研究でも明らかなように、GHQの焚書、言論統制によって、戦前の思想的学術的な蓄積は戦後日本に継承されなかった。
戦前の日本を全否定した戦後日本の学界、思想界は個人主義、進歩史観、反国家主義、コスモポリタニズムなどに偏向し続けてきた。



この現状を打開するためには、やはり保守派も思想的にも学術的にももっとハイレベルに洗練された言説を発信し、充実させなくてはならないのではないだろうか。

近年、下記のような保守主義に関する書物がいくつか刊行されているが、著者たちは私と同じような問題意識を抱いているようだ。
櫻田淳『常識としての保守主義』
潮匡人『日本人として読んでおきたい保守の名著』
佐藤健志『新訳フランス革命の省察-保守主義の父かく語りき』



大衆の覚醒を促して、国家意識に目覚めた日本人を一人でも多く増やすというのも一つの方法。
クーデターでも起こして左翼や在日から権力を奪取するというのも一つの方法。


そして、もう一つの着実で効果の期待できる方法として、一人でも多くのエリート層を保守派に引き込んで、左翼や在日の日本支配に対抗するというのもいいんじゃないかと私は思っているんだが、どうだろうか?
そのためには、保守派もIQの高い人材をひきつけるだけの深みのある洗練された思想を打ち出していく必要があるのではないだろうか?