
○ 病室の真向かい、堅固な地盤にたたずむ 威風堂々50年のなつかしき仕事場。
年 の 瀬
Ⅰ入院日
◇心模様
娑婆を離れて悠々と向かう先、
はたして如何なる世界が待ち受けているのだろうか。
左肩の重苦しさと腕の可動域制限は、全快するのだと信じ心は昂ぶる。
その心の高揚には本治療以上に期待する大きな決意が潜んでいた。
麻酔科医から全身麻酔手術の説明、全麻が生体に及ぼす喫煙の害を諭す。
僕は目をつむって聞くに全くごもっとも、
まして痛いのも苦しいのにも我慢できない臆病者は、
“いい機会、人生最後の挑戦”と決意した、禁煙の承諾であった。
禁煙、この言葉に何度無様な負け越しをした事か数えきれない。
それだけ僕にとって、難攻不落の人生最大の課題であり続けた。
今では、忘れかけていたと言うより無力にあきらめ。
ドーパミン効果を元気の基と決め、はた迷惑を顧みず、
吸いすぎないで付き合うのも人生と腹をくくっていた。
今日で14日、高い付加価値を夢見て、
今静かに心の支えとなって浸透している。
◇病棟・部屋
「旅は道ずれ世は情け」病棟3階は4床室をベースキャンプに選択、
先客2名がいる、一人は肩から腕を支える装具を付けている。
ベットは空いている窓側をお願いする。
窓の正面外30m先、かって二十数年務めたなつかしい室
(3、4、6F)が見える。
社員の動向は昔と何も変わっていない、ただ女性社員がやけに目立つ。
3病棟を見回す。
ナースステーションを中心に病室、談話室等の他、
整形外科特有の広いリハビリテーション科が配置されてある。
看護師さん達はみんな笑顔で、てきぱきと動き回っている。
生身の体を扱う仕事、それも病める生き物を扱うやさしさと真剣さが、
美しさを発露する根源となっている。
異世界の1日は明日の手術に向けて緩やかに流れて行くのだが・・・
‹Ⅱへ続く›