家に帰ると夫が帰宅していて、台所を夫ひとりでほとんど片付けていた。


漫画本の表紙をチリトリ代わりにして、


とても上手に破片を集めていた。


この人は、本当に掃除が上手だなあと感心した。


私も明るいうちに何かやらなくちゃと思い、


中身が全部出てしまっているクローゼットに物を戻すことにした。


また降ってくるかもしれないので、


重くて危ないものは下に置くようにした。


あっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


懐中電灯を見つけた!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


電池もついている!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


最高だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


今は1億円より価値があると思った。


夫とソファーを元の位置に戻そうとするが、


重くてなかなかうまくいかない。


どうしてこんな大きなソファーにしてしまったんだろう。


考えても仕方のないことばかりが頭に浮かぶ。


部屋が元通りになると、とても安心した。


地震などなかったような気になってくる。


元通りの位置に戻ったソファーに座り、


毛布をかけると、いつの間にか私も夫も眠っていた。


夕方目が覚め、


また、ラーメンをつくる。


水がもったいないからと、


夫はラーメンのスープにふかひれスープの元を使うという。


どちらにしても水は使うんだけどな・・・


そのときはそう思ったが、


後で考えてみると、毎食同じ味では飽きてしまうので、


少し違った味のものを食べさせたかったんだろうなと思った。


乾めんと、ウインナーを入れ、めんをほぐす。


ほとんど水がなくなって、めんは硬いままだが、


温かいものを食べると安心した。


暗くなった部屋。電気はまだつかない。


携帯のワンセグでテレビを見る。


津波があったようだ。


町がなくなっているところもあるという。


多賀城は大丈夫だろうか。


みんな、無事だろうか。


確認するすべはない。


充電が気になり、テレビを消す。


本を読むこともできず、気持ちが落ち込んできたとき、


夫がipodで動画を見せてくれた。


ケイティーペリー、レディーガガ、マイケルetc・・・


なぜかダディーヤンキー、レゲトン!!!!!!!!


懐かしい!!!


「○○にいたころ、そこのTSUTAYAでCD買おうとしてたよね」


『実際に買ったんだよ』


「そうだっけ笑笑」


ああ懐かしい。


笑いがこみあげてきて、声に出して笑った。


夫が日中パソコンで充電して、


夜、真っ暗になっても寂しくないように考えてくれたんだと思った。


夫はなにもしゃべらないが、そういう人なのだ。


本当にこういうところ、大好きだなぁと思った。


充電がなくなるまで見続け、眠ることにした。

公園を抜け、まずは近所のスーパーへ。


ディズニーランド以来、久々にこんな長蛇の列を見た。


並ぶまい、と思ったが、


家に帰ってまた一人、夫の帰りを待つのは嫌だ。


こうして青空の下、他人の会話を聞いて、


情報を得たほうがずっといいだろうと思い直し、


列の最後尾まで歩いていく。


商品は残っているだろうか。


最前列の人はいったい、何時から並んでいたんだろう。


よくわからないまま、ひたすら待った。


よくしゃべる人がいて、


何も情報がない自分にはありがたかったが、


だんだんと人のおしゃべりがうるさく感じるようになり、


きっとこの人は怖いんだろうなと思い、


自分は案外、こういうときは冷静な人間なんだと気づいた。


自分の番が来たのは2時間後だった。


店の外に、かごを20個ほど並べ、


限定的な商品だけが入れられている。


必要かどうかはわからなかったが、


ナプキン・アセロラジュース・茶・野菜ジュース、


カップめんは1家族5個までだそうだ。


なるべく『大盛り』と書かれたものを選ぶ。


お菓子は3個まで、


のどが乾くので、なるべく辛くない物をと思うが、辛い物しか残っていない。


店の中がぼんやりと見え、


中にお彼岸用のカステラが売られていて、


店の奥から店員さんが取って来て、リクエストした女性に渡した。


『2個しかないので、1人1個で、他の人にも分けて下さい』


しかし受け取った女性は無視して、


2個とも自分の袋に入れたようだった。


店員さんは何も言わなかったが、


言葉にできない、不快な思いがした。


1,500円ほど買って、家に帰ることにした。

3月12日(土曜日)朝6時半、


夫は会社へ行った。


見送ったあとすぐ、夫が戻ってきた。


缶コーヒーを取りに戻ったのだと思ったが、


『階段がグラついてる、アパートも傾いてる、外に出ないほうがいい』


これを言いに戻ったのね。


不安だったが、不安だとは言わなかった。

昨日は普段よりかなり早く布団に入ったが、


ひどく疲れていて、


寒さも感じたが、もっと眠りたかった。


起きると、もう10時を過ぎていた。


目が開いて数秒後、


「夢でありますように」と考えた。


周囲を見回すと、やはり部屋の中はぐちゃぐちゃだ。


地震だったんだ、テレビもつかない。


片付けようと思いたち、ふと、自分がまだ、


マフラーをしたままだったことに気づく。


寒いからいいやと、そのままにして、


まずはトイレを片付ける。


水浸しなのは何故だろう、わからないが、まずは床を拭く。


洗面所はイソジンが飛び散ってひどい。


浴槽には水を張ってあったが、ずいぶんを減っている。


浴室の天井から、断熱材のようなものが見えているが、


どうぜ入浴しないため、放っておくことにした。


台所のドアを開けて中に入り、


邪魔なものを外へ出した。


どこかでカニが泣いている。


皿は割れ、ガス台がぶらーんと落ちている。


手を伸ばし、元栓を閉める。


胸が苦しい、心が変だ。


これはマズい、外へ出なければ。


散歩でもして来ようと、財布と買い物袋を持って外へ出た。