3月12日(土曜日)朝6時半、


夫は会社へ行った。


見送ったあとすぐ、夫が戻ってきた。


缶コーヒーを取りに戻ったのだと思ったが、


『階段がグラついてる、アパートも傾いてる、外に出ないほうがいい』


これを言いに戻ったのね。


不安だったが、不安だとは言わなかった。

昨日は普段よりかなり早く布団に入ったが、


ひどく疲れていて、


寒さも感じたが、もっと眠りたかった。


起きると、もう10時を過ぎていた。


目が開いて数秒後、


「夢でありますように」と考えた。


周囲を見回すと、やはり部屋の中はぐちゃぐちゃだ。


地震だったんだ、テレビもつかない。


片付けようと思いたち、ふと、自分がまだ、


マフラーをしたままだったことに気づく。


寒いからいいやと、そのままにして、


まずはトイレを片付ける。


水浸しなのは何故だろう、わからないが、まずは床を拭く。


洗面所はイソジンが飛び散ってひどい。


浴槽には水を張ってあったが、ずいぶんを減っている。


浴室の天井から、断熱材のようなものが見えているが、


どうぜ入浴しないため、放っておくことにした。


台所のドアを開けて中に入り、


邪魔なものを外へ出した。


どこかでカニが泣いている。


皿は割れ、ガス台がぶらーんと落ちている。


手を伸ばし、元栓を閉める。


胸が苦しい、心が変だ。


これはマズい、外へ出なければ。


散歩でもして来ようと、財布と買い物袋を持って外へ出た。