寮は住宅街の中に有りました

 

良い言い方をすればレトロですが結構な築年数を思わせる建物でした

引き戸の玄関に真っ直ぐ伸びた廊下と横に二階への階段が有ります

半畳ほどの玄関には所狭しと色んな靴が脱ぎ散らかして有りました

 

匂いこそ余り有りませんでしたが見るからに汚い玄関口です

俗にウナギの寝床と言われる形式の縦に長い幅の無い家でした

二階建てでは有りますが木造建築で廊下を歩くたびにギシギシと音が鳴ります

 

廊下の片側は窓が何か所か有り蛇口が3個付いた洗面所的水場が一か所だけ有ります

反対側に部屋が並び階段に近い場所がトイレに成ってました風呂は有りません

木の引き戸に南京錠のカギが有る四畳ほどの部屋が三部屋並んで有りました

 

エヤコンもテレビも何も無いくたびれた畳の部屋にゴロンと寝ころびます

見上げる天井はシミだらけの板張りに裸電球がぶら下がっていました

身体を起こし少し大きめの窓を開けて見ましたが隣の家の壁が見えるだけでした

 

個室で有る事が勇逸の救いです

布団は初日の仕事が終わる頃に部屋に持ってくると言われていました

面接に来る面々は一晩の宿に使って働く事無く居なくなる輩も居るからです

 

こう言う業界も日雇い労働の業界も年々厳しさが増していたようです

此処でも契約が取れなければ一か月で10万円ほどの借金が出来てしまいます

以前は三か月無契約だと配達の販売店に強制移動される条件でしたが

今回は一か月と面接時に伝えられていました

 

自信は有りませんでしたが最悪逃げれば良いと思っている自分が居ました

自分みたいな人間が居るから段々条件が厳しくなるのだと ふと思うと笑えます

自分の首を自分で絞めているのですから救いようが無い事です

 

仕事ですが今回は結構な広範囲での勧誘仕事でした

以前の時は片道1時間は稀でしたが此処ではそれが普通でもっと遠い場所も有ります

契約無し所持金無しで寮に歩いて帰るのは現場からは無理でしょう

 

まぁ僻地の仕事場を選んだのですから当然と言えば当然の事です

毎日の前借は行動費として二千円借りられましたが交通費に足りない事も有りました

駄目な事と解っていても帰る為に行った日も有ります

 

身体は思ったより体力は残っていて昼前から20時まで歩き回り仕事を終え

帰って寝るまでなんとか持ちました

もちろん久々なので数日は足が攣ったり筋肉痛は有りました

 

二週間ほどは真面目に一軒一軒訪問して仕事をしていましたが契約は取れません

以前覚えた抜け穴的方法も有りましたが此処の同僚達と気分的に馴染めなかったので

何時も一人で行動していたので使えませんでした

 

結果やる気は無くなり何時逃げ出すかを考える日々に成りました

毎日は貰った二千円をどうやって残して空腹を満たす事を考えます

銭湯なんて行けませんから寮の洗面所で深夜に身体を拭いていました

 

固形の石鹸で下着を洗い身体と髪を洗っていました

一個数十円ですし10日ほど使えましたのでコスパ最強ですが髪がキシキシに成ります

頭から靴まで同じ石鹸で洗っていましたので自分の匂いが石鹸でした

 

そんな生活は三週間ほど続いて期限で有る一か月に成る前に逃げ出します

最後の週に成れば会社からの問答も有りますし気付かれるかもと思ったからです

その日の朝も何時もの様に会社に行き行動費を前借し現場に向かう為に同僚と

駅へと向かいますが途中で忘れ物と伝え同僚から離れます

 

同僚が見えなくなって寮へと走り荷物を持って逃げ出しました