前回の続き……。

Tと言う若いヤクザは心に漆黒の闇を持っている女性を愛していた。

どうにか救い出したいという思いが私にも伝わってきた。

普段のY(Tの嫁)さんは、明るく手優しく

母のような温かさがあり

私も母のように慕っていた。

だが、ひとたび些細なことで猜疑心が生まれると

豹変して般若の面の様な形相で怒り狂ったり、

今思えば精神の深い所にある、医者すら手をつけられぬ病気だったのだろう。

Tは純愛を持ったまっすぐな男故にYを放っておくことが出来なく、そんなTの優しさか甘さに私は寄り添ってしまっていた。

時は少したち、16歳になった私はTの盃を頂戴し、代紋(バッチ)を頂き

正式な組員になった。

喧嘩はそこまで強くはなかった私だが、

根性と戦術には長けていたのだろう。


1人で殴り込みに行き、地元のシマ持ちのヤクザを切りつけたり、

その頃には私にも弟分たちも数人居て

弟分の敵討ちもきっちりとやり遂げたりと、

気づけば暴力の中で生きていた。


T親分はいつも言っていた。

「俺らみたいなものを頼ってきた人たちのためにいつでも体を張れる男でいたいな。」と笑顔で。

若かりし頃の私はこのサムライスピリッツを持った柔らかな笑顔の男が憧れで全ての、この全ての人生すら捧げても良い男だと思っていた。


ふざけてヤクザをやっている者共は弱者をいじめ金を得る。

そのヤクザを恐怖で振るいあがらせる事など私達には簡単であった。

本気(マジ)でヤクザをやっている自負だけはあったからだ。

「武士道とは死ぬことと見つけたり」葉隠れの一説、

これは命を粗末にすることではなく、死にものぐるいで腹を括った一人の侍を倒すには10人20人がかりでも容易なことでは無いという意味だ。


子供ながらに私はTからこの教えを受け、

仕上がっていたのだろう。


この後私は先輩たちを飛び抜け若者頭を務めることになる。

19歳の終わりごろ。

(18歳、若頭補佐)