映画『マチルダ 禁断の恋』 | 普通人の映画体験―虚心な出会い

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私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2018年12月19日(水)新宿武蔵野館(東京都新宿区新宿3-27-10 武蔵野ビル3F、JR新宿駅中央東口から徒歩2分)で、14:40~鑑賞。

「マチルダ 禁断の恋」

作品データ
原題 МАТИЛЬДА  
英題 Mathilde
製作年 2017年
製作国 ロシア
配給 シンカ
上映時間 108分


«Матильда»(マチルダ)

ロシア史上最大のタブーにして最大のスキャンダルの実話を映画化。ロマノフ朝の最後の皇帝ニコライ2世(1868~1918)と、マリインスキー・バレエ団の伝説のプリマ、マチルダ・クシェシンスカヤ(1872~1971)の許されぬ恋の行方を、現ロシア映画界が絢爛たるセットと衣装を総動員して描く。ニコライ2世役にドイツを代表する実力派俳優で、『ブルーム・オブ・イエスタデイ』のラース・アイディンガー、マチルダ役にポーランド出身の新進気鋭の女優で、『ゆれる人魚』のミハリナ・オルシャンスカ、恋のライバルであるヴォロンツォフ役にロシア映画界人気NO.1のスター俳優で、『ハードコア』のダニーラ・コズロフスキーが挑む。出演。監督は『爆走機関車 シベリア・デッドヒート』でゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネートされたアレクセイ・ウチーチェリ。

ストーリー
1890年代後半のロシア。ロシア帝国の次期継承者ニコライ2世(ラース・アイディンガー)には、イギリスのヴィクトリア女王の孫娘でアリックス(ルイーゼ・ヴォルフラム)という婚約者がいた。ある日、王室の列車が大事故に巻き込まれ、家族を助けようとした父アレクサンドル3世(Sergey Garmash)は重傷を負う。ニコライは父の死期とともに王位継承者として自由気ままな生活の終わりを悟るのだった。
ある時、帝国旅団のための競技会で、多くの見物客に交じり華やかなバレリーナたちがいた。その中でもひときわ美貌を放っていたマチルダ・クシェシンスカヤ(ミハリナ・オルシャンスカ)にニコライは釘付けとなる。二人は惹かれあうが、マチルダを一方的に恋い慕うヴォロンツォフ大尉(ダニーラ・コズロフスキー)が突然、皇帝に襲い掛かる。嫉妬に狂ったヴォロンツォフは、駆け付けた護衛たちに取り押さえられる。
王位継承者の新しいお気に入りとなり、他のバレリーナたちから激しい嫉妬の対象となるマチルダだったが、どんな時も気高く振る舞っていた。一方、拘束されたヴォロンツォフは拷問され、フィッシェル医師の研究室で実験対象となってしまう。彼はマチルダへの想いに取り付かれ、発狂してしまったのだ。
王位継承者のニコライとマチルダの情熱的な情事は、宮廷では歓迎されない禁断の恋となっていく。さらに、ニコライの婚約者アリックスはロシア入りし、マチルダというライバルがいることを知り、激しい嫉妬と憎悪を燃やすのだった。マチルダはニコライに「彼女と結婚したら、あなたは不幸になる」と言い放つが、ニコライは引き裂かれる想いで、皇后である母マリア・フョードロヴナ(インゲボルガ・ダクネイト)の強い意志でアリックスと結婚する。マチルダへの想いが募るばかりのニコライは、やがて王座を背く決断をし、マチルダの元へ戻ると彼女と約束するのだった。だが再び、ヴォロンツォフが現われ、復讐のためマチルダの乗ったボートに火を放つ。ニコライはこの惨劇を目の当たりにし、マチルダが亡くなったと思い込む。
マチルダ亡き今、王座へ背くことはせず戴冠式を受け入れるニコライ。大聖堂で妻アリックスとともに厳かにロシア新皇帝の戴冠式が執り行なわれる。その最中に、マチルダが突然現われ、彼女が生きていることが判明…。卒倒するニコライだったが、気を取り直し、王位継承者の証である王冠をその頂に戴く。
戴冠式と共に開催された即位記念の祝賀会場で、記念品に群がってきた大群衆が将棋倒しになり、千人以上が死傷するという大惨事が発生、ニコライは陣頭指揮を執り、葬列を照らし慰霊するため、自身の皇帝即位を祝うはずだった花火を盛大に打ち上げるのだった―。

映画では戴冠式と即位記念祝賀会が同日挙行となっているが、実際は戴冠式が1896年ユリウス暦5月14日に、記念祝賀会は戴冠式の数日後に行なわれた。その祝賀会当日、「ホディンカの惨事」と呼ばれる事件が起きた。モスクワ郊外のホディンカ(Ходынка)の平原に設けられた祝賀会場(飲み物とパン、それに記念品が配布されると告知された)に、50万人に達する大群衆が押しかけ、順番待ちの大混乱から将棋倒し事故が発生、約1400名の死者と1300名を超す重傷者(その大半は重度障害者となった)を出すにいたった。

▼本編映像→予告編



ミハリナ・オルシャンスカ(Michalina Olszanska、1992~) インタビューOKWAVE Stars Vol.809 2018年12月12日) :
(2018年12月7日、ミハリナは本作の日本公開のタイミングで緊急初来日→翌12月8日、初日舞台挨拶を東京・新宿武蔵野館で行なった。)
Q:ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世の即位前の恋を描いた本作ですが、その時代背景についてはご存知でしたでしょうか。
A(ミハリナ):この時代のことは知っていましたが、マチルダという女性のことは知りませんでした。私の出身のポーランドでは無名だと思います。非常に面白いと思いましたし、尊敬できる女性だとも思いました。この役を演じて、すっかり彼女に恋に落ちました。

Q:マチルダのどんなところが魅力的だと思いますか。
A:マチルダは人生にまつわる全てに情熱を持っていました。バレエを踊るときも、ニコライを愛するときも常に100%です。そういう人はどの人からも魅力的に映ると思います。普通の人がシャイになってしまったり、躊躇してしまいそうなときも、彼女はそう考えません。マチルダはすべてのものを自分は得られる、と思っています。私たちも本当はそういう態度を持っているべきだと思います。

Q:マチルダ役はオーディションを受けて選ばれたとのことですが、オファーを受けたときと実際に決まったときのお気持ちをお聞かせください。
A:素晴らしい機会だと思いました。ポーランドではこんな大作映画はありませんので、オファーを頂いたときは100万回に1回のチャンスだと思いました。オーディションを受けている期間はワクワクとストレスの繰り返しでした。最後、役をもらえると聞いたときには、アレクセイ・ウチーチェリ監督を追い回して「本当に私ですか」「他の人に変わったりしませんよね」と何度も確認してしまいました。この映画に出演するまでは私は女優としては駆け出しの状態だったので、マチルダ役に決まったときは、まさに小さな女の子がお姫様になったような気持ちになりました。

Q:マチルダはバレリーナなので、演じる準備も大変だったと思います。役作りについてお聞かせください。
A:まずバレエの授業にたくさん通って集中してレッスンを受けました。今もロシア語で会話はできないのですが、セリフを覚えるためにもロシア語を学びました。ロシアでの公開では、私もニコライ2世を演じたラース・アイディンガーもロシアの声優さんが吹き替えていますが、やはり話すときの口の動きがシンクロしなければなりませんので、発音をしっかり練習しました。

Q:ニコライ2世を演じたラース・アイディンガーとの共演についてお聞かせください。
A:すぐに仲良くなりました。ラースは役者としてはもちろん、人柄も素晴らしいので、一緒にいて演じやすかったです。待ち時間などにおしゃべりをたくさんしていましたが、あまり役柄についての話はしませんでした。一緒のシーンではあまり準備しすぎないようにしようと思ったからです。ふたり別々のシーンも多かったのですが、共演シーンでは、彼がいろいろときっかけを与えてくれるので、心地よく演技ができました。

Q:現存する宮殿での撮影や、衣装や身につけていた宝飾品についてお聞かせください。
A:宮殿やバレエの劇場は非常に美しいロケーションでしたが、それ以上に大事だったのは、本物の場所だということです。そこにいると歴史のスピリットが感じられて、役者として大きな助けになりました。何かのフリをしたり想像するのではなく、そこで感じたまま演じればよかったからです。マチルダが身に着けていたドレスなどの衣装や宝飾品も全て本物です。それも役になりきる上で重要でした。

Q:この映画に携わったことで、新しい発見などはありましたか。
A:女優として多くのことを学びました。そもそも1年もかけて撮影をするのは初めてで、今までに経験したことがありませんでした。例えば、あるシーンを撮るときには3日、時には6日もかけていました。ポーランドではありえない撮り方です。3日間、同じシーンの芝居をすることは女優としての集中力が試されるということでもあるので、いい経験になりました。個人的に得たことでは、私の通訳をしてくれたロシア人の女性と仲良くなりました。今では彼女はポーランド人と結婚してポーランドに住んでいるんです。

Q:ポーランドの映画業界について教えてください。
A:ここのところ、毎年良くなってきていると思います。とくに女性監督が増えて活躍していると思います。90年代はロマコメやメロドラマばかりで停滞気味でしたが、そういうブームが去ってから、ポーランド映画の翼が広がってきたと思います。日本の皆さんがすぐに見られるポーランドの作品には、Netflixで配信されている「1983」というオリジナルシリーズがあります。カーシャ・アダミク、オルガ・ハイダス、アグニェシュカ・ホランド、私が出演した『ゆれる人魚』のアグニェシュカ・スモチンスカの4人の映画監督がメガホンを取っています。こちらには私も出演しています。

Q:ミハリナ・オルシャンスカさんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A:非常に官能的で、ビジュアルも美しい映画です。まずはそれだけでも楽しめると思います。また、歴史の事実に基づいたドラマなので、歴史好きな人にも楽しめるでしょうし、歴史に興味が無い方には逆にロマンチックなシンデレラのようなおとぎ話として楽しめると思います。いろんな人がいろんな視点で楽しめると思います。あまり考えずに映画館で楽しんでいただけたらと思います。

私感
私がミハリナ・オルシャンスカの出演作を鑑賞したのは、『ヒトラーと戦った22日間』(2018年製作)(本ブログ〈September 15, 2018〉)に続いて、今作(2017年製作)が2作目。
『ヒトラーと戦った22日間』では、彼女はチョイ役ながら、何かを思いつめたような艶(なま)めかしい眼差しが実に印象的で、このポーランド・ワルシャワ出身の美人女優の存在が私の記憶にしっかりと刻み込まれた次第。本作では、ロシア革命前夜に咲いた徒花(あだばな)のようなヒロインを演じた彼女だったが、これまた何とも魅惑的で、上映時間全体を通して、マチルダ⇒ミハリナの映像美は私の目を奪いつづけた。
マチルダ⇒ミハリナの場合、何よりも私を惹きつけるのは自分に忠実な、誇りに満ちた生き方そのものである。踊りたい、美しくいたい、バレエ団の中で主役になりたい、生きているからには誰かを激しく愛したいし愛されたい、それは相手がロシアの次の皇帝であるニコライであっても同じ…。
彼女は“フエッテ(fouetté)の32回転” (チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」第3幕の黒鳥〈オディール〉の踊りでは「32回転フエッテ」が行なわれる)に敢然と挑戦する。それは彼女の、達成したい、手に入れたいという揺ぎ無き意志の強さを象徴する光景にほかならない。
それにしても、ミハリナは東欧美女の一典型か、色白で端整なルックスは見事!妖艶な美しさ、しなやかな肢体、射るような強い眼差し…これは匂い立つ情念混じりの官能美というべきか!

 ↓ 劇中、バレエダンスを披露するミハリナ・オルシャンスカ
「マチルダ」 
ミハリナ・オルシャンスカ