映画『恐怖の報酬』(オリジナル完全版) | 普通人の映画体験―虚心な出会い

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私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2018年12月4日(火)ヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区有楽町2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ4F、アクセス:JR山手線・有楽町駅中央口から徒歩1分)で、13:00~ 鑑賞。

「恐怖の報酬」

作品データ
原題 SORCERER
[謎めいた原題“SORCERER”は、フリードキン監督がジャズ・トランペッターのマイルス・デイヴィス(Miles Davis、1926~91)のアルバム・タイトル「ソーサラー」(1967年/「魔術師」の意)からヒントを得て命名された。なお、本編中の、カッセムとマンゾンが乗るトラックの側面にそのフランス語SORCIERという言葉が記されている。また、ニーロとスキャロンのトラックのボンネットにはLAZARO(ラザロ:死から蘇生したキリストの友人の名)と記されている。]
製作年 1977年
製作国 アメリカ
配給 コピアポア・フィルム
上映時間 121分


『フレンチ・コネクション』(1971年)でアカデミー作品賞・監督賞ほか5部門受賞、『エクソシスト』(1973年)で全世界にオカルト・ブームを巻き起こしたウィリアム・フリードキン(William Friedkin、1935~)が、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督による1953年の傑作フランス映画『恐怖の報酬(Le Salaire de la peur)』をハリウッドでリメイクしたサスペンス大作。ユニバーサルとパラマウントという2大メジャー・スタジオが、当時破格の2000万ドル(現在の100億円相当)以上といわれる製作費を共同出資。ロケは北米・南米・ヨーロッパの3大陸、アメリカ・フランス・イスラエル・メキシコ・ドミニカ共和国の5か国に及び、2年を超える製作期間を費やしてようやく完成した。だが、1977年6月の全米初公開時、批評が賛否に分かれたこと以上に、歴史的大ヒットを続けていた『スター・ウォーズ』の直撃を受け、興行的に失敗。北米以外の国(日本も含む)では、フリードキン監督に無断で本編121分が大幅にカットされた92分の【短縮版】(『Wages of Fear 』と改題)が公開され(日本公開:1978年3月25日)、まともに評価されることもなく公開は終了。以後、日本では数回の【短縮版】TV放送、1991年のセル・ビデオ(北米公開121分版)発売を最後に一切見ることが不可能になっていた。出資した2大スタジオが互いに興行失敗の責任を回避し、作品の権利を積極的に主張しなかったことによって、世界的に過去数十年間にわたって上映できない状況が続き、北米以外ではDVDも発売されなかった。日本では、熱狂的なファンが再公開やDVD化のリクエストの声を上げるも実現せず、オリジナル版を見ることは半ば絶望視されていた。しかし2013年、フリードキン監督は複雑極まりない権利問題を解きほぐし、自ら指揮を執って121分【オリジナル完全版】の5.1ch、4Kデジタル・リマスター化に着手。同年のベネチア国際映画祭でプレミア上映され、以後、2014年ロサンゼルス、2015年パリ、2016年カンヌ国際映画祭、2017年ロンドンで上映され、各地で再評価されて今日に至っている。そして2018年11月24日に、日本でも『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』のタイトルで劇場公開された。
本作では、南米のジャングルを舞台に、反政府ゲリラによって爆破された油田の火災を鎮火させるため、ひとり1万ドルの「報酬」と引き換えに、危険なニトログリセリン運搬を引き受けた4人の男たちの命運が描かれる。主演は『JAWS/ジョーズ』『オール・ザット・ジャズ』の米国の名優ロイ・シャイダー(Roy Scheider、1932~2008)。そして、世界各国からフリードキン監督好みの性格俳優が結集⇒フランスから『まぼろし』のブルーノ・クレメル(Bruno Cremer、1929~2010)、スペインから『バロック』のフランシスコ・ラバル(Francisco Rabal、1926~2001)、モロッコから『RONIN』のアミドゥ(Amidou、1935~2013)が出演。

ストーリー
【メキシコ・ベラクルス】
広場を見下ろすホテルの一室。窓際に立っていた男が煙草をもみ消し、ウィスキーグラスを手にする。玄関のドアが開き、サングラスに帽子をかぶった初老の紳士が現われる。サイレンサー付きの銃で男を射殺した殺し屋ニーロフランシスコ・ラバル)は、エレベーターで階下に降り、何事もなかったようにホテルを後にする。

【イスラエル・エルサレム】
アラブ系の若者3人が連れ立って歩いている。彼らはショルダーバッグを銀行の前に置いたまま、停留所からバスに乗り込む。バスが出発して間もなく、バッグの中の時限爆弾が爆発し、現場は阿鼻叫喚の大惨事に。アジトに集合した若者たちが慌ただしく逃走準備を始めると、外に軍の特殊部隊の車輌が次々と到着。兵士たちは一斉にアジトに突入。反撃する間もなく2人が射殺され、1人が拘束されてトラックで連行される。ただ一人難を逃れたカッセムアミドゥ)は、群衆の中に紛れ、遠ざかる同志の姿を見送る。

【フランス・パリ】
投資家のマンゾンブルーノ・クレメル)は、書籍編集者の妻と優雅な生活を送っている。だが、妻から結婚10周年記念の腕時計をもらった日、証券取引所の頭取から不正取引を追及される。告発までに24時間の猶予を得たマンゾンは、共同事業者で義弟のパスカル(Jean-Luc Bideau)に、財界の実力者たる彼の父に損失金を補償してもらうよう交渉しろ、と詰め寄る。 高級レストランで、妻と妻の友人と食事をしていたマンゾンは、パスカルに呼び出される。パスカルは父から自分の責任は自分で取れと突き放されたとマンゾンに告げると、車の中で拳銃自殺を遂げる。マンゾンは仕事で先に店を出るという妻宛ての言伝(ことづて)をレストランの支配人に託すと、その場から一目散に逃げ出した。

【アメリカ・ニュージャージー州エリザベス】
アイリッシュ・マフィアの一味が、ビンゴ開催中の教会に押し入った。ドネリー(Gerard Murphy)以下4人の男たちは、神父たちを銃で脅し、売上金を強奪。逃げようとした一人の神父の脚にドネリーが一発見舞った後、一味はすぐさまスキャンロンロイ・シャイダー)が運転する車でその場から逃走した。強奪成功に浮かれていた男たちは、まもなく車内で内輪揉めとなり、運転を誤ったスキャンロンは大事故を起す。3人の仲間は即死か瀕死の状態。消火栓から吹き出す水しぶきが事故現場を濡らす中、血まみれのスキャンロンはかろうじてその場から逃げ延びた。 夜、安ホテルの前でスキャンロンは友人のヴィニー(Randy Jurgensen)と会う。ヴィニーが語るには、ドネリーが撃った神父は対抗組織のボス、カルロ・リッチ(Cosmo Allegretti)の弟で、生き残ったスキャンロンに対し、殺しの指令が出ているというのだ。国外に高飛びしろというヴィニーの忠告に従い、スキャンロンはボルティモアの桟橋で仲介者と会うことに―。

【南アメリカ・ポルヴェニール】
ジャングルに囲まれた南米ポルヴェニール(Porvenir)。そこは犯罪者や、ならず者などが暮らす街だった。ある日、300キロほど先の山上の油井で突然、爆発事故が発生した。炎は見る間に広がって、石油の貯蔵タンクが次から次へと爆発。油田火災を鎮火するには爆薬による爆風に頼るしかないものの、石油会社の倉庫にあった40ダースものダイナマイトは反政府ゲリラに盗み出されており、残ったニトログリセリンを険しい山道をたどって火災現場まで運ぶ以外に方法はなかった。早速、僅かなショックでも大爆発を起こす消火用ニトロをトラックで運搬する志願者が募られた。最終的に選出されたのは、祖国を追われ、この熱帯の地に流れ着いたニーロ(メキシコ・ベラクルスで標的を射殺した殺し屋)カッセム(イスラエル・エルサレムで爆弾テロを実行したアラブ・テロリスト)マンゾン(フランス・パリで不正取引を追及され、逃亡した投資家)スキャンロン(アメリカ・ニュージャージーで教会を襲撃し、ビンゴ売上金を強奪したアイリッシュ・マフ ィア)の4人の男たち。4人はその煉獄の地から逃れるため、各1万ドルの現金および国外へ出られる旅券の“報酬”と引き換えに、この命がけの危険な任務を請け負うことに。2台のトラックに分乗した彼らは、道なき道を300キロ、密林の奥へと突き進んでいくが、途中には洗濯板のような悪路、転回困難な狭路、崩落寸前の吊り橋、道を塞ぐ巨大な倒木、吹きすさぶ大嵐、出没する反政府ゲリラなど想像を絶する困難が待ち受けていた。彼ら4人は無事、現場にたどり着けるのか?その人生を賭けた男たちの運命の激流やいかに?

ウィリアム・フリードキン監督メッセージ入り予告編 :



The Bridge Scene