映画『タリーと私の秘密の時間』 | 普通人の映画体験―虚心な出会い

普通人の映画体験―虚心な出会い

私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2018年11月13日(火)下高井戸シネマ(東京都世田谷区松原3-27-26、京王線・東急世田谷線下高井戸駅から徒歩2、3分)で、16:40~鑑賞。

「タリーと私の秘密の時間」

作品データ
原題 TULLY
製作年 2018年
製作国 アメリカ
配給 キノフィルムズ
上映時間 95分


『ヤング≒アダルト』のジェイソン・ライトマン監督と脚本のディアブロ・コディ、オスカー女優のシャーリーズ・セロン(主演兼製作)が再び組んだ人間ドラマ。3人目の子供が誕生して心も体も限界に達したヒロインが、若くて有能でどこかミステリアスな、夜だけのベビーシッターとの交流を通して、疲れ果てた主婦の心を解放していくさまを、コミカルかつハートウォーミングに綴る。生き生きと魅力的なシッターを『オデッセイ』『ブレードランナー 2049』のマッケンジー・デイヴィスが好演している。

ストーリー
もうすぐ3人目の子供が生まれるマーロ(シャーリーズ・セロン)は、大忙しの毎日を送っている。娘のサラ(リア・フランクランド)は手がかからないが、息子のジョナ(アッシャー・マイルズ・フォーリカ)は情緒が不安定だ。今日も姉弟が通う小学校の校長に呼び出され、ジョナをサポートする専門家を自分で雇ってほしいと言われてしまう。夫のドリュー(ロン・リヴィングストン)は優しいが、家事も育児も妻に任せっきりで、マーロもそれが当たり前だと思っていた。
ある日、事業で成功して贅沢な暮らしを送るマーロの兄のクレイグ(マーク・デュプラス)が、出産祝いにナイトナニー~字幕は“ナイトシッター”だが、セリフは“ナイトナニー”(night nanny、夜間専門の子守)~を手配してくれると言う。見知らぬ人に赤ん坊を預けることに抵抗と罪悪感のあるマーロは断るが、クレイグは妹に強引にシッターの電話番号を渡すのだった。
無事に女の子を出産したマーロだが、家事は膨大に増えていた。さらに、再び校長に呼び出され、ジョナには違う学校へ行ってもらうと言われ、遂に感情が爆発し、校長を怒鳴りつけてしまう。
帰宅したマーロは、もはや限界とナイトナニーを頼む。夜10時に現われたタリー(マッケンジー・デイヴィス)と名乗る若い女性を見て、唖然とするマーロ。お臍の見えるTシャツにジーンズのファッション、いきなりタメグチのイマドキの女の子だったのだ。だが、戸惑うマーロにタリーは、「私を頼って」と自信たっぷりに宣言し、2階でゆっくり眠るようにと促すのだった。
翌朝、目覚めると、タリーの姿はすでになく、代わりに8年間全く掃除していなかった1階のリビングとキッチンが、すっかり綺麗に片付けられて、花瓶には花まで挿してある。マーロは夫に、「彼女は何もかも完璧。なんだか、世界が明るくなった」と、久しぶりに晴れ晴れとした顔で微笑むのだった。
それからというもの、タリーは定期的にやってきて、“完璧”を更新し続ける。さらに、「人生の全部をケアしなきゃ」と、マーロの昔話や愚痴を聞いてくれ、悩みごとの相談にまで乗ってくれる上に次から次へと解決もしてくれる。そんな彼女にマーロは次第に心を開いていくようになった。
しかし、マーロとは対照的にタリーは、決して自分のことは語らず、そして必ず夜明け前には姿を消してしまう。それでも、マーロとタリーの不思議な絆は深まり、いつしか二人は友情を結んでいく。
ある夜、マーロとタリーは、車でブルックリンに飲みに出かける。車の中で、タリーは「もうナイトナニーには来れない」と言う。「その時が来たの」マーロは、行かないで!と懇願するが、タリーの意思は固そうだ。
しかも、その夜、ブルックリンでタリーとマーロは喧嘩してしまい、怒りに任せてタリーは一人で車を運転して帰ろうとする。しかし、さんざん飲んだ後のこと。マーロは車で自損事故を起こし、川の中に転落。沈んでいく車。そこに、人魚の姿のタリーが泳いできて、マーロのシートベルトを外し、脱出を手伝う。マーロは水中の車から脱出して、病院に運ばれた。
駆けつけた夫は、医師から「奥さんは極度の睡眠不足で疲労の極致にあります」と告げられ、大反省。「俺は、家事や育児のことを何にも知らなかった。ナイトナニーが来てることは知っていたが、会ったことがない」
病室に1人でいるマーロのところに、タリーがお別れに来た。「26歳の私は、パワーが有り余っていた」と、自分にしか見えない、若い時の自分自身に言うマーロ。「子どもを産んだら、みんな忘れちゃうの?習ってたイタリア語も?」とタリーは笑う。2人は和解し、別れの時がやってきた。でも、もうマーロは一人でも大丈夫。「チャオ!」と言って去って行くタリー。
しばらく後。キッチンで、料理を作ろうとしているマーロ。その横に、夫が自然な感じで入ってきて、手慣れた手つきで料理を手伝い始めた。この夫婦も、もう大丈夫―。

▼予告編



シャーリーズ・セロン(Charlize Theron、1975~) インタビュー (→予告編)



◆ Interview:シャーリーズ・セロンマッケンジー・デイヴィス(Mackenzie Davis、1987~)が『Tully』の裏側、映画業界の展望について語る(DIRECTION(NewSphereのアート&デザインセクション)-May 24, 2018)―
(Mackenzie Davis as Tully and Charlize Theron as Marlo star in Jason Reitman's TULLY) 
《アルコール中毒で、あらゆる面で大人になりきれず、意地が悪くておバカなダメ人間を映画『ヤング≒アダルト』で演じて以来、脚本のディアブロ・コーディと監督のジェイソン・ライトマンとまた仕事がしたいと、シャーリーズ・セロンは考えていた。
そんなわけで、つらく厄介な、時に笑いを誘う母親の現実を曖昧な視点で描く『Tully』(タリー)のアイデアをコーディが思いついたとき、セロンは脚本を読むまでもなく3人の子どもの母親役を引き受けた。育児に疲れ果てた彼女が意を決して迎え入れるナイトナニー(夜だけの子守)が、マッケンジー・デイヴィス演じるタリーだ。
主演のふたりが先ごろ、この型破りな映画(詳細は観てのお楽しみ)、テレビドラマに対抗するためには映画が進歩しなければならない理由、女性映画の脇役を喜んで演じてくれる男優に出会うというめったにない喜びについてAP通信に語った。》


AP通信(以下AP):デイヴィスさんにお伺いします。この映画への出演が決まった経緯は?
シャーリーズ・セロン(以下セロン):最初にオファーした女優のスケジュールが合わなかったんですが、私のエージェントが彼女をよく知っていて…
マッケンジー・デイヴィス(以下デイヴィス):それで、コネで入ったんです。いえ、ライトマン監督からお話をいただきましたよ。私、『ヤング≒アダルト』がものすごく好きなんです。タリーは、これまで演じたことのない、とても素敵な役でした。彼女はマーロ(セロン)というひとりの女性を成長させる。友だちってそういうものですよね。私の人生の糧になる大切な役でシャーリーズと共演できてよかったです。

AP:タリーはマニック・ピクシー・ドリーム・ガール(映画で描かれる、男性を惹きつける明るくてかわいい典型的な理想の女の子像)的な役柄なのではと最初はちょっと心配だったのですが、まったくそんなことはなかったですね。
セロン:そう思いますよね。ずっとそういう女性像を見せられてきたから、女性が女性を支えるなんて絶対にないだろうと思い込んでしまう。それで、どうにかして私から夫を奪おうとするような展開を想像する。そんな幻想を笑い飛ばすのがこの映画です。
デイヴィス:トレイラーからはそういう要素が読み取れますよね。「ああ、やっぱり彼女は旦那を…」ってみなさん思うでしょう。私を含め、みなさんの想像を裏切る映画ではないでしょうか。

AP:この映画では男性が脇役ですよね。
セロン:こういうことがあると、すごくうれしいです。女性映画の脇役をやりたがらない男優が多いので。『アトミック・ブロンド』で共演したジェームズ・マカヴォイのように、「僕の役目は君のサポート。それで満足だ」と言ってくれる男優がいると本当にうれしいです。
デイヴィス:キャリアがあって喜んで脇役を演じてくれるいい男優って、めったにいないんです。
セロン:そう、そしてそれは決していいことではありません。ロン(夫役のロン・リビングストン)は毎日欠かさずやって来て、作品全体に貢献してくれました。男優がそんな風にしてくれるのは、本当にうれしいことです。
デイヴィス:口先だけじゃなく、行動で示さなきゃダメってことですね。

AP:セロンさんにお伺いします。マーロの外見的な役作りはどのように決められたのですか?
セロン:仲のいい友だちが妊娠したときは、いつも一番近くで見守っていました。話し合ったわけではないですが、考えるまでもないことですよね。脚本の10ページ目で3人目の子どもを産む女性を演じるなんて想像もできなかったし、出産後の影響がどんなものか考えられませんでしたが、できるだけ近づきたいと思ったんです。「真似すればいいや」という演技は私には無理でしょうね。そういうのがヘタなんです。私にはできない。私がメソッド俳優だからではなく、身体的な部分では、ダンスをしていた頃の影響が大きいのかもしれません。私にとって、外見で語ることは言葉で語るよりも重要だと言っても過言ではありません。

AP:15年ほど前から製作を手掛けておられますが、製作の魅力とは何ですか?
セロン:元はと言えば、自分を守りたい一心で始めました。初めて製作した『モンスター』は、パティ・ジェンキンス監督の初監督作品でした。怖かったんです。全身全霊をささげた映画がまったく納得できない代物になってしまう、そんな目にそれまでさんざん遭ってきたので。あるとき、「自分で製作したら自分でコントロールできるようになるじゃない」と思い付いたんです。そして、そんな考えが変わって、製作を楽しむようになりました。映画製作の計画を立てるのが楽しかったんです。製作できないかもしれない作品を製作したり、雇われないかもしれない人たちを雇ったりできる立場でいられるのが魅力ですね。

AP:この映画は、並み居る超大作と同時期に、そして、映画ビジネスが流動的な時期に公開予定です。映画業界についていささかの懸念はありますか?
デイヴィス:爆発シーンばかり見せられて退屈だっていうのが映画離れの理由のひとつじゃないかな。ほかのものが見たいし、映画館に映画を観に来る理由がほしいですよね。
セロン:映画業界に不安があるとは言いませんが、ストリーミングやテレビで行われていることは、映画のそれと同じだと思う。私たちはもう少し頑張らないといけませんね。テレビには魅力的なキャラクターやストーリーが映画の中以上にあふれてる。特に女性に関しては。
デイヴィス:それに、テレビだと冒険できるし。『アトランタ』(原題:Atlanta-引用者)って観たことある?
セロン:あるある。あれはすごいわよね。
デイヴィス:ジャズみたい。実験的なドラマよね。
セロン:『このサイテーな世界の終わり』(原題:The End of the Fucking World-引用者)は? 勇敢で実験的な、ストーリーを語るうえで最高の形―あのストーリーテリングには映画ではもうお目にかかれない。(映画では)大抵、やれ観客層だ、やれ動員数だって調子で大事なことを見失ってますよね。テレビはそんな風に機能しない。テレビはストーリーテリングのうまさだけで勝負する。テレビドラマを売り込もうとしたら、局のお偉方に「もっと踏み込んでもらえないか」って言われたんです。その後、映画業界で作品を売り込もうとしたら、「それはちょっとやりすぎだ」って言われました。素晴らしいテレビドラマが次々と製作されてハードルがどんどん上がっているので、私たちも本気を出さないといけないですね。

《LOS ANGELES (AP) — Charlize Theron had wanted to work again with screenwriter Diablo Cody and director Jason Reitman since the movie “Young Adult,” in which Theron got to play a true mess of a character — alcoholic, all-around stunted and viciously hilarious.
So when Cody dreamed up the idea for “Tully,” a somewhat undefinable look at the harsh, messy and often funny realities of motherhood, Theron didn’t even have to read the script before saying yes to playing the mother of three, who finally decides to let someone into her life to help in the form of a night nanny, Tully, played by Mackenzie Davis.
The two actresses spoke recently to The Associated Press about this unconventional movie (the less you know, the better), why film needs to step it up to compete with what’s on television and the rare joy of finding an actor willing to play a secondary role to a woman.》

AP: Mackenzie, how did you join this team?
THERON: Well the actress that we wanted wasn’t available, but she was a close friend of my agent… 
DAVIS: And so I snuck through the grapevine. No, Jason told me about it. I was a die-hard fan of “Young Adult.” And the role is so lovely. It’s something I hadn’t played before. I found it really nurturing to be in that role to another woman. That’s so much of how you are with your friends. And it’s such an important part of my life and a nourishing part of my life that it was nice to perform that on film and with Charlize.

AP: I was a little worried she might be a sort of manic pixie dream night nanny at the beginning, but that’s not the case at all.
THERON: You go there because we’ve been fed that for so long, this misconception that women could never be supportive of one another. Like, you would definitely just try to steal my husband from me. And we make fun of that in the movie.
DAVIS: I’ve seen some of that stuff already from the trailer. People being like, “Well of course she (expletives) the husband.” And I’m like well it might be different than what you think.

AP: And the men are almost a side-show here.
THERON: Sometimes you’re super grateful when you get that. A lot of men won’t do that for women. I’m just grateful whenever a man will walk on, and I had this with James McAvoy on “Atomic Blonde,” when you have a guy who is like, “yeah, I’m here to support you, and I’m OK with that.”
DAVIS: It is so hard to find a good actor who has some career trajectory who is willing to play a secondary part.
THERON: And that’s wrong. Ron (Livingston) showed up every single day so invested in the whole thing. When a man does that it means a lot to me.
DAVIS: It’s putting your money where your mouth is.

AP: Charlize, how did you decide on the physicality of your character?
THERON: I’ve had a lot of very, very close friends of mine go through pregnancies and I’ve had a front seat to it all, and it’s not even that we had a conversation about it, I think it was a no-brainer. It was just impossible for me to even imagine playing a woman who is giving birth to her third child on page 10 and not thinking what the aftermath would be. I wanted to get as close as I possibly could do that. It would be hard for me to be like, “oh, I’ll just pretend.” I’m just not that good. I can’t do it. Not that I’m method, but the physical part, maybe it goes back to being a dancer most of my life. That physical storytelling is almost more important to me than the verbal storytelling.

AP: You’ve been producing now for 15-some years, what do you like about it?
THERON: Initially it started as just trying to protect myself. The first thing I produced was “Monster” and it really just came out of fear. I was working with a first-time director and up until that point in my career had just been really let down. You put yourself out there and the film ends up being something that was never agreed on. And I had a moment there that was like, ok, if I do this I just want to be able to have that control. And then it changed. Producing became something I liked. I liked the logistics of making a film. I love that we’re in a position where we can make things that might not be able to get made and also, you know, hire people who might not get hired.

AP: This is coming out alongside some pretty big blockbusters and at a time when the movie business is in flux. Are you worried at all about the film industry?
DAVIS: I think part of the reason people stopped going to the movies is it’s (expletive) boring to just watch explosions all the time. You want something else and some reason to have a communal experience.
THERON: I wouldn’t say I’m worried about the film industry, but I think that what’s happening in streaming and on television is something that we in film, well we have to step it up a little bit. There are way more conflicting characters on television and story lines, especially for women, than there is in film.
DAVIS: And playing with form in TV. Like have you watched “Atlanta”?
THERON: Yeah, it’s amazing.
DAVIS: It’s like jazz. It’s this experimental thing.
THERON: Or “The End of the F***ing World”? The way they go about telling that story, you don’t see that on film anymore — being brave and experimental and going about the best way to tell the story, when I think a lot of the time (in film) we’re putting the cart before the horse like “this audience, this audience.” Television doesn’t’ function like that. It’s just good storytelling. I remember going in and pitching TV shows and having TV execs say, “Can you go further with that” and then finding myself in film pitching something and hearing, “That’s a little too much.” I think we have to step up to the plate because the bar has been set really, really high by a lot of great shows in television.

私感
謎めいた現代のメリー・ポピンズ=タリーの“正体”は?
それは、マーロが作ったもう一人の自分、いわば幻影である。マーロは産後うつに苦しみ、過度な寝不足と不安定な精神状態からもう一人の“理想”の自分を作り出し、その彼女に肉体的にも精神的にも頼ることで、現実逃避をしていた。自由で活力に満ち、怖いもの知らずで、スタイルも抜群にいい、過去10年前の自己が“理想化”されたマーロ⇒タリ-、そして3人の子供を産んで、日々に疲れ果て、時間に追われ、容姿を気遣う余裕もない、現在のマーロ!
このマーロを演じたシャーリーズ・セロン
彼女は産後うつと戦い、誰にも頼らずに頑張りすぎて、心が悲鳴を上げているマーロの痛々しさを見事に体現している!
セロンは美貌とスタイルをかなぐり捨てて約18キロ(一説に約23キロ?)も体重を増やして、マーロ役に挑んだとのこと。役作りのために体形を変えることはこれが初めてではなく、アカデミー賞主演女優賞を受賞した2003年の『モンスター』で演じた娼婦・殺人犯役でも約13キロ増やしていた(cf. 本ブログ〈December 31, 2015〉)。今回はそれよりも5キロ重い増量で、産前・産後の主婦の役を積極的にこなしている。ストレスから産後太りが加速してしまう役で、惜しげもなく弛(たる)みきった体をスクリーンに映し出す。
シャーリーズ・セロンの“女優魂”は、まことにもって驚異的!彼女が天来の美貌の持ち主なるがゆえに、それがことさら際立つ。