何か違う。
その違和感は、僕の身体にあった。
通常、植物状態や意識不明の重体、昏睡状態など、
寝たきりが続くと、筋力は落ち、痩せていく。
意識が回復しても自力で動くことはできない。
僕は動けた。長い間植物状態にも関わらず、だ。
医師が言うには、僕は植物状態だったが、
身体は起きている状態、しかも運動をしているような興奮状態であったという。
原因は不明だが、身体を動かせる程度に衰えなかったのはそのためだと。
しかし、僕の身体に起きていたことは、もっと想像を超えるものだった。
「動かせる程度?これが?」
考えようと思ったが、子供の声で中断された。
「おにぃたん、たふえてくえてあいあとう!!」
顔一杯の笑顔とよく通る声が僕に向けられる。
脊髄損傷のため首から下がほとんど動かず、うまく喋れない子だ。
性格は明るく、好奇心旺盛。
遠目で見ていたが、少しだけ動く右手だけで
電動車椅子を操作して散歩していたようだ。
よそ見。小さな下り坂に車椅子が進んだ。
(まずい!)
小さいとはいえ下り坂、転倒し、重い電動車椅子の下敷きになる子供の姿が浮かんだ。
車椅子が下り坂に入り、斜めになった。
次の瞬間、僕は子供の車椅子を下から支えていた。
(!!??)
「大丈夫だった?よそ見しないよう気をつけないと。」
なんとか笑顔を作り、車椅子を持ち上げて、下り坂とは反対方向に向けて下ろした。
「ぅん!あいあとう!」
そう言ってゆっくりと去っていった。
僕は力が抜けたように下り坂に仰向けに寝転がった。
(なんだ今のは!?一体何がどうなってるんだ!?)
(僕は何をした!?)
電動車椅子を持ち上げたとき、軽いと思った。
それだけじゃない。
10メートル?20メートル?
僕はさっきまで遠く離れた場所から遠目で子供を見ていた。
なぜ助けることができた?
なぜ!?
それから僕は自身の身体の変化に次々と気付いていった。
脚力だけでなく、腕力など筋力全般の著しい向上、
指の一本一本の隅々まで神経が通ったような、繊細で正確な動きもできた。
視力、聴力、はたまた直感と呼ばれるものまで劇的な変化があった。
見た目が筋骨隆々になったわけではないので、
変化に気付く人は少なかったし、
気付いてもリハビリを兼ねた筋トレのやり過ぎぐらいにしか思われなかった。
なぜかはわからないが、バレなくて良かったと思う自分がいた。