マーヴェリック:トランプ大統領を支持する大衆の価値観を理解するために | ALL-THE-CRAP 日々の貴重なガラクタ達

マーヴェリック:トランプ大統領を支持する大衆の価値観を理解するために


マーヴェリック
Maverick
監督:リチャード・ドナー
脚本:ウィリアム・ゴールドマン
製作:ブルース・デイヴィ、リチャード・ドナー
出演:メル・ギブソン、ジョディ・フォスター、ジェームズ・ガーナー
音楽:ランディ・ニューマン
撮影:ヴィルモス・スィグモンド
編集:スチュワート・ベアード、マイケル・ケリー
1994年 アメリカ映画

「ゼーガーとエバンズ」という一発屋のバンドが出した「西暦2525年」というヒット曲があった。
もう50年も前のことだから、知らない人、覚えていない人も多いだろう。
英語の場合、"In The Year Twentyfive-Twentyfive"の繰り返しの語呂が覚えやすい。
驕れる人類の未来を悲観的にとらえた歌詞だったが、まさかその予言が500年も早く訪れるとは思っていなかった。
2020年は、これまた覚えやすい語呂である。
未来の米国史、いや世界史の教科書は、この2020年をどのように記述するのだろうか。
コロナ禍で始まり、大統領選挙で暮れようとする、この特異な年を。

2017年から2020年までの4年間、アメリカ合衆国の大統領はドナルド・トランプだった。
ローマ帝国を見るまでもなく、賢人と呼ばれる皇帝の後には、往々にして狂気の皇帝が現れる。
動物の中で唯一、冗談を理解する猿「ホモ・ルーデンス」は、生真面目の後には、カウンターバランスを入れたくなるのだ。
バラク・オバマ大統領の政権運営は、理念が先走った8年間だった。
トランプという、社会動向に敏感な男は、世論がカウンターバランスを望んでいると、本能的に察知したのだろう。
そこには、アメリカという国、およびアメリカ人の本質に関する、彼なりの理解も深く関与しているはずだ。

トランプのアメリカ観を形容する正しい言葉は思い浮かばない。
しかし、強いていえば、それは映画『マーヴェリック』的な価値観ではないかと、僕は思う。
『マーヴェリック』をご覧になった方は分かると思うが、この映画は最初から最後まで、欺瞞(deception)と虚偽(fake)に貫かれている。
正直な人間は一人も登場しない。
金以外のものは信じない。
恋とは、男と女の騙し合いである。
たとえ親子であっても、その関係性は打算である。
……ということで、謹厳な方には堪えがたい内容なのだが、それでありながら後味は、実に爽やかである。

僕は、ドナルド・トランプという人は、現代のマーヴェリックなのだと思う。
本人がどこまで自覚しているか分からないが、アメリカのおよそ半数を占める大衆は、トランプにマーヴェリックを重ねているはずだ。
アメリカ建国以来の楽天主義、無責任主義、反道徳主義(その裏返しの清教徒主義もふくめ)のヒーローがマーヴェリックであり、トランプなのだ。
つまり、トランプ支持者は、彼の一挙手一投足に、ある種の清涼感を感じているのだ。

そんな軽々しいものではない、トランプのやったことは、もっと罪深いという人もいるだろう。
しかし、アメリカの歴史を振り返ってほしい。
数々の愚行は、沈思黙考の末に行われたものではない。
すべては、「なんちゃって」なのである。
奴隷制度しかり、ベトナム戦争しかり、そこには哲学の欠片もない。

次の大統領ジョー・バイデンは「アメリカの癒し」を標榜している。
彼には、真摯な真面目さがある。
『マーヴェリック』には、登場しないキャラクターである。

「ゼーガーとエバンズ」程度の予言を、許していただきたい。
仮にバイデンが、大統領としてアメリカの分断を癒すことに成功したとしても、大衆は次のカウンターバランスを求めるはずだ。
ローマ帝国において、皇帝カリグラの後、性懲りもなく皇帝ネロが登場したように。
せめて、次の語呂合わせである2121年まで、そのようなことにならないようにと祈っているのだが……。