3月17日

この日は、マザーテレサの家に行くことに決めていた。
しかし、不安なことが。
フィリピンで暮らすNGOの方に、
「トンドは危険」と言われたのである。

私「何が危険なんですか?」
NGOの方「スラムだから…」
私「強盗とかという意味ですか?」
NGOの方「そういうわけじゃないんだけど…」

強盗とか殺人とかではない。ならば行くしかないでしょう!
本音を言えば、すごく不安だった。
でも、ホテルのタクシーは安全だし、マザーテレサの家の施設内も安全なはず。
だいたい、そこに人が暮らしているんだから!
帰りのタクシーさえ確保すれば、なんとかなるでしょう!!
要は、自分たちがどれだけ計画性を持って気をつけるかだけだ!と、
chi-ttanと二人で、「行きましょう!」と決意を固め、タクシーに乗車。

運転手はとってもいい人だった。
フィリピンは初めてか?マザーテレサの家は初めてか?
そんなことばかり聞くので、初めは「ぼったくるつもりだな??」と疑ってしまった自分が恥ずかしい。
道中ずっと名所案内をしてくれた。

笑顔で進む道中。
chi-ttanがデジカメで撮影を始める。
街並みはいつしか、インドで見た景色に似てきた。
タクシー運転手が言う。
「車のロックをしてくれ」
なんと、ドアを開けてカメラや金品を強奪される可能性があるという。
明るい日差しの午前10時。
一気に胸がつぶされそうになった。

運転手は叫ぶ。
「彼女たちは、日本からボランティアしに来たんだぞ~!と俺が言ってやるさ!!」

途中運転手も道がわからず、「リラックスして待っててよ」
と、道を聞きに言ってくれた。
この心遣い、本当に素敵な運転手さんに当たった。

彼を信頼して、帰りのタクシーについて聞く。
「○○ってタクシー会社はいいよ。それから△△もいいねぇ」
「あなたの会社はホテルとしか契約していないの?あなたの会社からタクシーを呼ぶことはできない?」
「・・・う~ん、なら、私は携帯を持っているから、帰る時間が決まったら連絡しなよ。1時間前にね。迎えに来るのに1時間くらいかかるからね。」
そして教えてもらった運転手さんの名前。
リムさん!!
マザーテレサの施設の人が出てくるまで、見守っていてくれたリムさん。
本当に素敵な運転手さん。

さて、
マザーテレサの家は、
マニラのトンド地区タユマンストリートにある。
向かいに大人の家もあり、日本人シスターもいるが、
私たちが何かボランティアをさせてもらいたいと訪れたのは"for sick children"のほう。
まずはシスターに事情を説明。
私たち「日本から来たのですが、インドのマザーテレサの施設に行ったことがありますが、フィリピンにもあると聞いたので来ました。突然で申し訳ないのですが、何かお手伝いさせていただけないでしょうか」
シスター「いつから?いつまで?」
私たち「私たちには今日しか時間がありません」
シスター「訪問時間は午前8時から11時までと、午後2時半から5時までですよ。」
私たち「大変申し訳ないのですが、今から今日の夕方までしか時間がないのですが。」
シスター「it's up to u!」

これから施設でボランティアをしたいという方のために書くと
本来は、上記の訪問時間の中でボランティアをし、午後からであれば、2時半に来るべきであったらしい。
しかし私たちはホテルからタクシーで約40分かけて来ており、
フィリピンも一日目。
トンドについて何も知らない…。
そこで、事情を説明し、木陰でもいいから時間まで待たせて欲しいとお願いした。
シスターはちょっと困っていた。でも、「OK」と言ってくれた。
本当に迷惑をかけてしまったと思う。
これから行く予定の人は、是非上記時間に合わせて行くようお願いします。

お手伝いは、掃除や皿洗いをイメージして行ったのだが、
2時半になると、子どもたちが庭に駆け出す。
そしてシスターが一言。
"You can go out."
指示?はこれだけ。
外に出て子ども達と遊ぶ。ほとんどの子が人見知りなし。

4時には食事(軽食なのか、夕食なのかわからない)。
「彼女に食べさせて」と言われ、食事介助。
この日の指示は、前述のものと、この言葉だけ。
でも、不思議と居心地は悪くなく、時間が流れていく。
4時半ころには学校?へ行っていた子どもたちも帰ってきて、
食事が終わった子たちはお風呂・着替えの後、シーツを取り替えた清潔なベッドでくつろいだり、笑ったり、泣いたり、踊ったり!

5時にリムさんが迎えに来てくれることになっていたので
それまでシスターの"You can wait here"の言葉に甘えさせてもらって待つ。
シスターがこの日初めて私たちについて聞いてくれた。
「どこのホテルに泊まっているの?」
「エドサ駅の近くです」
「あら~!!もっと近くにホテル取ればいいのに!あるでしょう?」

そして5時。
「シスター、ありがとうございました。タクシーが来たので帰ります。」
シスターは、子どもたちに笑顔を向け、こちらは見ずに一言"Thank you"と言った。
その後、こちらがお辞儀をしても、こちらを見ることは一度も無かった。
けれど、本来、そういうものだと思う。
全然嫌な気持ちにならない。
こちらが「させて欲しい」と押しかけて、その願いを叶えた。
本当にお礼を言うのは私たちだけでいいはずだから。
ものすごい充実感と、片手にひとりずつ子どもを抱え体力を使った心地よい疲労感で外に出る。
リムさんが笑顔で待っていてくれる。
施設内で許可なく子どもたちに物を渡すことは禁止されていたので
持参した折り紙も持って帰ってきた。
写真撮影も禁止なので、塀すら撮らずにタクシーに乗り込む。

リムさんは、帰りの迎えに来る分のお金は取らず、
行きと同じ値段でホテルまで送ってくれた。
行きは道がわからなかったので、少し遠回りになってしまったかもしれない。
でも、帰りの迎えに来るガソリン代も取らず、退勤時のラッシュアワーに引っかかって渋滞に巻き込まれたのに同じ値段にしてくれたのは、
本当に本当に、感謝すべきことだと思っている。

現地に住むNGOの方に「外国人だと交渉制になるから、300ペソくらいなら乗ってしまったほうがいい」とアドバイスを受け覚悟していたのに
リムさんはメーター通りの152ペソと言った。
フィリピンにはチップ制度があるので、200ペソ渡したけれど、リムさんは行きも帰りもお釣りを40ペソくれた。
「感謝の気持ちですから!」と言っても受け取らなかった。

フィリピン1日目。
この国を大好きになれそうな予感がした。