それでも人生にイエスと言う/V.E. フランクル
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先ず最初に特筆すべきは、著者のフランク氏がナチス政党ヒトラーの時代にユダヤ人強制収容所で囚人として生きた経験を持つ精神科医だという事です。 そしてタイトルの「それでも人生にイエスと言う」は、当時ユダヤ人たちが収容所で作って歌っていた歌詞の一節なのだそうです。


ユダヤ人だというだけで、女性や子供は勿論、労働力の無い人間は「無価値」だという通念の中、容赦なくガス室で殺されていく運命しかない人間というのは、どういった心理状態なのだろうと以前から思っていました。 

これまで私はオーストラリアと、アメリカはワシントンD.C.にある

ホロコースト・メモリアル博物館 ”に足を運んだことがあるのですが、そこにはあれほど絶望的な現実の中で、お互いに優しさを分け合い、励ましあい、力強い瞳で写真に納まっているユダヤ人の写真を見ることができました。  

また幸運にも生き残ることができた少年の日記には、母の誕生日に工場から布切れを盗んで持ってきた妹が捕まってしまわないかと心配する心情や、チューリップの球根1個が唯一家族4人で分け合う夕食だった現実や、少年をベンチに座らせるときにはいつも少年の父が、「今、電車の中に座っているんだぞ。 これから世界旅行をするぞ」と空想させ、広い世界の話を聞かせてくれたことなどが書き記されていました。 最後に少年と父親は生き残ることができたのですが、妹と母親には二度と会うことはなかったのです。


そういった残酷な人間の極みを見て、自由も尊厳も奪われた生活を強いられた人間が、強制収容中そして開放された後に、「生きる意味」をどう考えるのかが、この本では示されています。 

“人間が生きることに意義や理由はあるのか” “尊厳死の決定は医者の義務なのか” “絶望的な運命の中で人間はどんな心理で生きるのか” そういったことが経験をとおして書かれていて、著者は 「どんな状況の中でも、個人の気持ちの持ち方だけは唯一“自由”として残された選択なのだ」と教えてくれます。

人生を「無意味-nothing-」とする決断も、「超意味-beyond the consciousness-」とする決断も共に正当であり、同時に不当でもあるのだと。 ただし、生きることに「超意味」(私達の思想を超えた意味)があるのだと信じようと決断すると、創造的な結果(可能性)が後から実現するという法則についても付け加えています。 


人間には生きる理由が必要です。 

「人間というものは、もし飢えに何か意味がありさえするのならば、きっとまた進んで飢えを忍ぶものだ」という言葉にも頷けます。

でも著者は逆転の発想も提案しているのです。 

「私は人生にまだ何を期待できるのか」 ではなく、「人生は私に何を期待しているのか」 と考えるべきだということを。


読後の感想としましては、凄惨な経験を通ってきた一人の人間が証言する、極限の状態の人間の弱さ(自己防衛の感情放棄)と強さ(人間らしさや尊厳の維持)について、哀しいほどに伝わってきました。 そしてそんな著者が出した

「生きる意義」についての結論は、どんな逆境の人々にも希望の道を指し示すものでした。

苦難や逆境は人間を裸にして成長させる“必要悪”であり、その為に生きているのが人間なのだと教えてくれます。


一方で正直に追記しておくと、何か理論に説得力が欠ける部分があり、漠然とした消化不良のような気持ちも残りました。 

それが何なのか未だ自分でも整理がつかず言葉にできないのですが、結論など有り得ない難題ですので、当然なのかもしれません。 

他に読まれた方のご意見も是非お聞きしたいところです。


イヴの七人の娘たち/ブライアン サイクス

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この2週間、短期の仕事で渋谷に通勤しています。
バスも合わせると片道1時間半かかり、お陰で読書も進みました

その中で面白かった本をご紹介します。
『イヴの七人の娘たち -The seven daughters of Eve-』です。

エジプトとトルコを旅行してから、3000年~5000年前までの人間の様子は多少なりともイメージできるようになりました。
この本を読むと更に年月を遡り、“人間(ホモ・サピエンス)のルーツ”まで探っていきます。 それはどこのどなたかも判らない人間ではなく、今ここに生きている自分自身の母系の先祖にたどり着けるのです。

この本には、オックスフォード大学で遺伝学の教授を務めている著者が、人生と名誉をかけて研究してきた“ミトコンドリアDNA”についての驚くべき発見が世に広まり、反論を掲げていた他の学者達からも認められるに至った経緯と理論が熱く、解り易く書かれています。 これまで常識とされていた論理を覆す時の大変さがよく解り、また彼の理論の立て方も大変勉強になりました。

男性、女性に関わらず全ての人間はその母親から“ミトコンドリアDNA”が遺伝されます。 母方の祖先を辿っていくとピラミッド型に直属の先祖を絞っていくことができ、最終的には6億5000万人にものぼるヨーロッパ系人種の母系先祖は七人の女性に帰属するというのです。 この七人の女性達は同年代に生きていたのではなく、ネアンデルタール人と呼ばれる集団であった4万5千年前に生きた一人から、クロマニョン人時代に突入していた6千年前に生きた一人まで年代には差があります。 もちろんその時代の女性が彼女達だけだったわけではなく、他にも女性はたくさんいたのですが、七人の彼女達だけが先祖で有り得る理由としては、彼女達が二人以上の女児を生んでいたこと、そして各々の女児達が成長して子孫を残し、その子孫がさらに子孫を残していった結果なのです。

これまでに発見された人骨化石やミイラなどから採取されたミトコンドリアDNAと現代人のそれとは、まったく変わらない配列を持ち、この先もずっと女性が子供を産んでいく限りは遺し続けていける命の連鎖に驚くと共に、この広い視野で考えていくのなら、殆どの人間が“遠い親戚”“血の繋がった兄弟姉妹”であることに改めて人種差別の無意味さを感じてしまいます。

この本には、遺伝子学の見地から人類(ホモ・サピエンス)がアフリカから発祥し、近東に移動、その後同時期にアジア方面またはヨーロッパ方面に分散した後、アメリカ大陸、オセアニア方面に移動した確立の高さや、オセアニア諸島の人々が南米から航海移動してきた民族ではなく、東南アジアから移動してきた人々がルーツである証明、そして日本人のDNAは韓国人とほぼ同じであることから、韓国から移動してきた人達がルーツであることなどを、説明しています。
また、日本人の95%は9人の母系先祖に辿りつくそうです。
(イギリスの
オックスフォード大学研究所  に申し込めば誰でも自分の先祖を知ることができます。) 
自分のルーツがどこでどのように生活していたのかが判るなんて、好奇心がそそられました。

この本には著者が想像する七人の女性達の生活模様が、時代背景を考慮してストーリーにされている頁もあり、氷河期に過酷な気候を避けながら移動生活をする逞しい姿や、気候も次第に温かくなり農耕生活を取り入れてからの様子などが書かれていて、実在した祖先の素晴らしさを感じることができます。

読み応えのある一冊でしたので、ご興味がありましたら是非ご一読くださいしっぽフリフリ(文庫本もあり)