E=mc2 世界一有名な方程式の「伝記」/ディヴィッド・ボダニス
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今月1日に、広島に原爆を落としたとされるB-29 (エノラ・ゲイ)の機長、
ポール・ティベッツ氏が死去したというニュース が流れました。
3年前には長崎に原爆を落としたとされるチャールズ・スウィーニー氏が死去しています。
この本は、“原子爆弾” という殺人兵器がどのような物理学的理論で誕生し、また歴史的な流れで私達一般市民が暮らす広島・長崎という街に落とされるに至ったのか、ということを理解するのには最も解り易く、力量を持った1冊であると思います。
そして人間は、いかなる時にも宇宙をつかさどっているエネルギー原理をもって、“殺人兵器” に応用してはいけないのだということを芯から感じ取らせてくれる本でした。
上記の人たちを含む、原爆投下機に乗り合わせた殆んどの兵士が、当時その威力と性質についてしっかりとした認識をもって任務に当たっていたのではなかったといいます。 この本を読んだ後には、もし彼らに原子力爆弾の原理と威力が説明されていたのなら、果たして人間として爆撃できていただろうか? 或いは罪悪感にも苛まれずに、これほど長生きできただろうか? などと思わずにはいられません。
『E = 』 アインシュタインの天才的なひらめきから組み立てられた方程式は、理論から先に生まれ、その方程式の証明や工学的な実用化案は、後から付いてきたものでした。
この本では、この方程式を構成する1つ1つの記号を分けて解り易く説明するところから始まります。
そしてそれぞれの記号には、宇宙を構成する上での絶対的な法則 があることを知らせてくれます。
『E (エネルギー)』 ⇒ この世に広がっているエネルギーは、たとえ人間や動物の筋肉から放出される熱であっても、滝の飛沫や火山の噴火というかたちをとっているとしても、その総量は常に一定である。
それは例えば、神が宇宙を創造したときに発生した一定のエネルギー量が、これまでわずかたりとも減ることも増えることもない秩序の中で、私達の日常生活が維持されているということです。(エネルギー保存の法則)
『= 』 ⇒ 天秤でも方程式でもなく、斬新なアイディアを求めて覗く望遠鏡
『m (質量)』 ⇒ E (エネルギー)と同じく、形状(固体・液体・気体)は変わろうとも、宇宙・地球における総質量は常に一定である。
以下、本文より抜粋...
「それは例えば、宇宙を創造した神が現れ、こう言い放ったかのようである。
“わたしは自分が司る領域に一定量の物質を置く。 星々を成長させて爆発させる。 幾多の山を形成し、互いに衝突させ、風や氷で風化させる。 金属を錆びつかせ、ぼろぼろにする。 しかし、わが宇宙に存在する総質量は常に一定である。 100分の1オンスたりとも変わらない。 永遠の時を費やして待っても、変わることはないのだ。”」 (質量保存の法則)
『c (光の速度)』 ⇒ アインシュタインが天才たる所以は、E(エネルギー) と
m(質量) を結びつける換算係数として、c(光の速度) にひらめきを覚えたところだといいます。
エネルギー = 質量 x 速度()
までは誰でも想定できますが、そこに c(光の速度)という換算係数も理論上成り立つことを直感で感じ取り、同時に、
E (エネルギー) と m (質量) の和は常に一定である
と1905年に発表しているのです。
『(二乗)』 ⇒ 例えば本と電気スタンドとの距離を2倍縮めたとすると、読んでいるページに注ぐ光量は2倍ではなく4倍になります。
また、重りを高台から柔らかな土の上に何回か落とした場合、一番目に落とした速さより2倍早く落とすと、めり込む深さは4倍になり、3倍早く落とすと深さは9倍になります。(2乗分)
このように、世の中の幾何学的現象自体に、二乗した数値が顔を出すことが多いのだといいます。
アインシュタインも、その方程式の中で光の速度を二乗することに何の違和感も感じる必要はなかったのでしょう。
さて、こうして『E = 』 の方程式が完成した後には、その実験証明と利用方法に向けて様々な科学者たちの挑戦が始まります。
著者のデヴィッド・ボダニス氏は、オックスフォード大学で科学史を教えている博士であり、 『エレクトリックな科学革命』 と同じく、科学者たちの性格や境遇、利欲の絡んだ人間関係に翻弄される人生模様まで、詳細に興味深く語ってくれます。
本を読んでいて意外だったのは、科学の進展には女性科学者の活躍が大きく影響していたことです。
また偉大な発見の裏には、理論よりも信仰心、或いは『直感力』 が大きく作用しているという事実にも驚くものがあります。
アインシュタインがそうであったように、これまでの常識を良しとして大学教授が何の疑問も持たずに講義をしている中身に “本当にそれが真実なのだろうか...?” と 疑問を持つことの大切さも感じました。
私のような科学にど素人な者でも、とても解り易く書かれていて、以前と比べると 『E = 』 という方程式が断然身近に感じられるようになりました。
中性子によってその秩序を乱されたウラニウムの超ミクロな原子核に、光の速度の二乗という膨大な数値が掛け合わされると、恐ろしいほどのエネルギーが生じること、そしてその理論は発展して、宇宙を織り成している様々な原理原則の神秘の扉までも開けてしまったのだということをも知らせてくれる、貴重な一冊でした。
お時間がありましたら、是非ご一読ください