エレクトリックな科学革命―いかにして電気が見出され、現代を拓いたか/デイヴィッド・ボダニス
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“見えない電気は誰がどのように発見したのか?”

というシンプルな質問に明確に答えられる人は意外に少ないように思います。


古代の昔から、人々は稲妻が光り雷が落下して火事が起こる現象を目撃したり、乾燥した条件の中で不意に起こる火花 -静電気- などに出合い、それらが大きな熱とパワーを持っていることに気づいてはいても、その実態については手付かずのままでした。

その秘められた不思議な世界を明らかにする実験方法を思いついたのは、イタリアの自然哲学者 アレッサンドロ・ボルタでした。

彼は1790年代に、自分の舌の片側に硬貨ほどの大きさの銅板を、反対側に亜鉛板をくっつけ、この二枚の円盤の端を接触させると、舌に刺激が走るのを感じました。

こうして彼は自分の口のなかに、安定して機能する「電池」を、世界で初めて作った人として記述されています。


この本では、ボルタ氏の

“二種類の金属をつないだ針金に、激しい電気の流れが生じることがある”

という単純な発見から200年間という ごく短い間に、人類が辿ってきた目覚しい発展の流れについて、詳しく紹介されています。


銅線を流れる電気から電話、電信、電球が発明され、電気モーターが生産されるようになると街にはジェット・コースターや路面電車などが現れます。

電気から得た人間のクリエイティブな思考の展開は目を見張るものがあり、冷蔵庫、洗濯機などの一般家電の発達は、生活を一転して便利なものに変えてしまいました。


更にはその後、電気から電磁波の発見へと至る人々の経緯と、それがもたらしたGPS(全地球測位システム)、携帯電話、コンピュータ、MRI医療機器、軍事軍用機、などの発達について記載されています。

人間の神経細胞の中でも電気物質が絶え間なく活動していて、それは情報の伝達(認知)や記憶の保持、そして気性や気分のむらにさえも大きく影響していることが分かるのです。


私達を取り巻いているすべての空間 -頭上を覆う空から肉体の内部に至るまで- には、このような目には見えない波(電磁波)が何百万と満ちて飛び交っており、電気はそれ自体に動く力があるのではなく、その波に突き動かされているだけなのだということを発見します。


こういった研究は、やがて電気の持つ“場”の発見にも至り、人間の『記憶』が神経細胞を巡る電気の“力場”によって保持される ということも分かります。


現代では、抗うつ剤 “プロザック” に代表されるような薬物で、人間の気分さえもがコントロールできる段階にきました。

プロザック錠は、電気信号を発する小さな分子を放出し、その分子が、脳内の気分を快適にする成分 “セロトニン” の解体作業の活動を弱めて、セロトニンが長く活動できるようにし、患者の気分を快適に保つというものです。


人間の脳からは、約320キロメートルの波長を持った目には見えない波が出ているのだそうです。

電気・電子・電磁波が持っている性質は、これからもまだ未知数な可能性に広がっているように感じます。

この本を読んでいると、そんな見えない世界に手探りで挑戦してきた人間の知恵と天から降り注ぐ運、その展開の広がりの大きさに惹き込まれ、同時に驚愕してしまうのでした。