- 生命の暗号を聴く 名曲に隠されたタンパク質の音楽/深川 洋一
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第一章 の続きとなりますが、『タンパク質の音楽』 と 人間の作った曲との関連性について、本文(第二章)からいくつか例を挙げてみます。
1) ベートーベン作曲「運命」 の、“ダ・ダ・ダ・ダーン” の部分と同じメロディとリズムで始まるタンパク質は、『ヒト繊毛性性腺刺激ホルモン (hCG) 受容体』 で、妊娠初期に急激に増えるホルモンです。
もしかすると子宮の中10週目の頃に私達は、『運命』 の調べにとてもよく似たメロディを聴いていたのかもしれません。
2) 昭和のヒット曲「こんにちは赤ちゃん」 の部分は、乳腺刺激ホルモンを促す、『牛のプロラクチン受容体』 のメロディと対応します。
3) 映画 “バグダッドカフェ” の挿入歌「コーリング・ユー」の
“I'm calling you” の部分は、『PH20』 と一致します。
『PH20』 は、精子の頭部に含まれる、卵丘を溶かす働きを持つ酵素です。
この歌をご存知のかたには共感いただけると思うのですが、一度耳にすると頭から離れない独特のメロディと、抽象的で寂寥感が漂う歌詞はとても印象的ですよね。
人間の作ったメロディが『タンパク質の音楽』 とシンクロするだけでなく、そのタンパク質の持つ働きと呼応したかのような曲名や歌詞が作られてしまうということも、人間と音楽に関わるもう1つの不思議だと知らされます。
4) モーツァルトが妻コンスタンツェとの間に子供を授かった際に、妻のために作曲した“弦楽四重奏曲 第15番 ニ短調” は、
『Gタンパク質シグナル伝達系調節因子 RGS4』 と対応します。
これは、繰り返して与えられる刺激を緩和する働きを持っています。
また同じ曲の別のパートでは 『オキシトシン受容体』 と一致しており、それは、妊婦の乳汁を分泌したり、出産の際に子宮の収縮を促進して分娩を助ける働きがあります。
5) 中村八大氏作曲の“上を向いて歩こう” は、坂本九が歌って大ヒットしましたが、この曲には糖尿病を招く『PPARγ』 を抑制するタンパク質のメロディと類似した部分がいくつかあります。
この曲は “SUKIYAKI SONG” として1962年にイギリス、アメリカ、シンガポール等、世界中でヒットし、最終的には69カ国でレコードが発売され、
合計で1270万枚売れたのだそうです。
この頃はどの国もこれまでと比べて食生活が豊かになり、糖尿病が深刻な病気の一つになってきていました。
作曲家の中村氏自身も重い糖尿病だったといいます。
そんな時代背景の中、大ヒットをした“上を向いて歩こう” は、時代が求めた
心に響くメロディだったのかもしれません。
そして、思いつきでつけられたという海外向けタイトルが “スキヤキ” だったというのも、この本を読んだ後には腑に落ちるものがありました。
その他、この本の中に挙げられた事例は枚挙にいとまがないのですが、つまりは無意識に、或いは潜在意識やインスピレーションが働いて、その場に応じた『タンパク質音楽〈天の音楽〉』 が、人間によって作詞・作曲〈地の音楽の誕生〉されるということです。
また興味深い情報として、同種のタンパク質のメロディを、いろいろな生物で比較してみると、そのタンパク質の機能が進化しているほど、メロディとしても美しく完成度が高まっている ことが解ってきているということです。
例えば、鉄分の定着に関する『フェレドキシン』 というタンパク質のメロディは、ホウレン草が他の生物と比べて最も完成度が高く美しいといいます。
ですので、“こんにちは赤ちゃん” に対応している乳腺刺激ホルモンを促す『プロラクチン受容体』 のメロディも、人間のそれではなく、もっと完成度の高いメロディを放っている牛の『プロラクチン受容体』 のほうにより近似していたのです。 (牛のほうが人間と比べて圧倒的に乳汁の負荷は大きいです)
その理論でいうならば、ある種の才智に恵まれた作曲家は、自らの体内から湧き出るインスピレーションからタンパク質の役割に呼応したメロディを創作しているのではなく、全生物からの選りすぐりの、耳には聴こえない超高周波であるメロディを感じ取って曲にしているといえます。
もしそれが事実であるならば、見えない世界へのヒントが隠されているような気がします。
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さて、第三章では、第一章 の冒頭に出てきた、
“ウシバエ は狂牛病(プリオン)の原因である。 ゆえにウシバエを絶滅させろ”
という国の命令に異論を唱えた二人の農夫とその証人ジョエル・ステルンナイメール博士の裁判について話が戻されます。
それは自然界の摂理と人間の横暴さを私達に知らせ、『タンパク質音楽』 の科学的な可能性について興味深い展開を広げることになります。
続きは次回とさせていただきます。
長い文章に、お付き合いいただきありがとうございます