幻の光/宮本 輝
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私は小説家でも宮本輝が一番好きです。

彼の多くの小説には自身の人生の基盤でもあった大阪の街と能登半島の日本海が舞台となって、人間のストーリーが展開されています。


彼の本の中でも、『幻の光』が一番読んだあとの衝撃が大きく

その世界観からいつまでも抜け出すことができませんでした。


豊かではないながらも愛する夫と結婚をし、子供も授かって静かな幸福を感じていた主人公を、突然 夫の自殺という出来事がおそいます。

いつもと同じように自転車で出かけていった愛する人がなぜそんな選択をしたのかを、その後彼女はずっと一人で考えて暮らしていきます。 夫の"やぶにらみ”だった瞳が忘れられない彼女。 次第に無口になっていきながら、ひたすらに一日を終えていく彼女の日々。


ある日大家さんの紹介で、彼女は能登の小さな町に暮らす男性の元にまだ幼い子供と共に嫁ぎます。

能登行きの電車での何気ない出来事や、能登駅に着いてからの心情や、新しい夫や舅や町の人々との新しい生活についてなど、ひとつひとつの小さな描写が、実に物悲しくも微かな希望が見え隠れしていて惹き込まれます。

日本海の荒々しく寂しい風景と静かな古びた日本家屋での生活が妙にせつなく、それでも人々の優しさや子供達の無邪気さ、新しい旦那さんとの精神的な通いあいが、彼女の深い霧を晴らしていきます。


人の持つ弱さと優しさ、悲しさと幸せ、そんな抽象的な内容をとてもクリアな想像上の映像で伝えてくれる小説だと思います。

日本海を照らす、僅かな銀色の光が目に浮かびました。


この小説は江角マキコと内藤剛が主演で映画化されビデオショップにも並んでいます。

蛇足ですが、私の想像上の新しい夫役は、内藤剛というよりも柳葉敏郎でした。 主人公の女性は…というと、思い浮かびませんが。