人はなぜ笑うのか―笑いの精神生理学/志水 彰
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この本はさらっと読めておもしろいです。 

著者はなんと3名で、大阪大学医学部大学院で博士号を取得後、精神医学の大学教授をされている志水氏と、同大学院博士課程修了後に人間科学研究所所長を勤められている角辻氏、さらには同大学院人間科学研究科博士前期修了後、心理学の大学教授を勤めておられる中村氏が、各々専門分野について執筆しています。

妹の出産した子供が笑わないことを少し心配していたのですが、3ヶ月になる頃にとても表情豊かになり、声を出して可愛らしい笑顔も見せてくれるようになり、『どうして笑うのだろう?』と思ったのがこの本を読んだきっかけです。

人間の遺伝子には感情表現が元々組み込まれていて、例えば盲目で聾唖である新生児であっても、微笑みだとか啜り泣きなどの基本的な表情を身につけているのだそうです。  笑いの表情や声など、視覚や聴覚で知りえない情報でありながら、快適なときには口元に微笑みの表情が浮かび、自然な笑い声が出てくるということは、当たり前のようでいてすごいことだと思います。 

また、生後数時間で“味覚”もあり、甘い時には安らぎの表情、苦い時にはしかめ面、酸味の時にはすっぱい表情になるそうです。  快・不快の感覚と顔の筋肉との関係は、生まれる前から遺伝子に組み込まれているのですね。

ですが意外なことに、笑う時の『口が広がり、口角が上がり、歯を出す』という一連の行為は、

“動物が誤って口に入れた毒物を吐き出す動作” であり、“サルが驚いたときの表情”なのです。 そしてサルの場合、相手が自分より強い場合で、自分には敵対する意思が無いことを示す時に、目の周囲の筋肉を緩め、正に人間が笑うときの目元の表情に近いのだそうです。

サルのこうした、いわゆる媚を売るような一連の意思表示が、更に進化した人間の場合には、緊張感の緩和時にこぼれてしまう笑いとなり、さらに顔が平面になるにつれ眼が横に広がり、白目が見えるようになったことから表情が豊かになり、人間関係において様々な笑いが出来るようになったのではと推論しています。

確かに人の笑いには、純粋な“快の笑い”の他に、“攻撃の笑い(冷笑)”、“社交上の愛想笑い”、くすぐられて笑う笑い” など様々です。  (人間がくすぐられて笑うのは心を許した人のみで、きらいな人にくすぐられても弛緩できないので笑えないのだそうです)

蛇足ですが、個人的には『勘違いネタ』には弱いです。 この本の中にも、

『ボストン行きのチケットを外国で買う際に、"to Boston"と言ったら、チケットが2枚(two)渡され、"for Boston"と言ったら、チケットが4枚(four)渡されてしまった。 困ってしまい、『エート、エート』と考えていたら、チケットが8枚(eight)渡された。』 という笑い話が書かれていました。

私自身も、ニュージーランドのカフェで、"a cupptino, please"と言ってカプチーノを注文したら紅茶(a cup of tea) が出てきました。

内容は勿論ですが、数々の“笑い”の例え話や素朴な挿絵も同時に楽しめました。

病的な笑い、人種による笑いの文化・感覚の違いなどについても書かれていて興味深かったです。

(神々の沈黙の続きは週末に読みます。)