もの食う人びと/辺見 庸
¥720
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『宿命』という言葉の理不尽さを測るとするならば、人々が日々何を食べているのかという単純な現実は大きなバロメーターに成り得ます。


この本は、元共同通信社の記者である著者が様々な諸事情を抱える国に足を運び、そこで人々が日常食しているものを実際に食べて記録しているルポルタージュなのですが、読後の衝撃は強く、いつまでも印象に残る本でした。


食べる、飲むということに“栄養”や“味”を求められる時点で、私達は相当に恵まれていることを自覚しなくてはなりません。 

蛇口をひねれば無菌無害な水が流れ出し、調理後に一定の時間を過ぎたら次々と捨てられていった動物の肉は半世紀ほどでどれほど大量の“生ゴミ”となってしまったのでしょう。 ハンバーガー

例えば韓国の従軍慰安婦についてのルポや、人肉についての件などは、読んでいてもの悲しくなります。

また放射能が残る土地で暮らす老人の食生活や、残飯で生き延びるしかないバングラディッシュの子供達などについても、体験したありのままを記しています。


劣悪な境遇であろうとも、何かを口にして僅かながらも血肉に変えて生きていく人間の極限での強さも感じますが、やはり根底には、その国や地域で生きている人間の苦悩や寂寞の思いが伝わる本でした。


“食物を選べる側”の国に生まれた者として知っておく『義務』があるような気がして、読んでよかったと思える一冊でした。
ハードカバーよりも文庫本の方が、写真付でお薦めです。

(文庫本にあたって、“喰う”から“食う”に変更されたのは、それぞれの人間個人に対する著者の敬意の表れからなのでしょうか...?)