ある男 読みました人の戸籍で生きる というモチーフは他にもありそうだが、小説の面白さは、登場する人物のありようう、その状況経緯がどれほど興味深く描けるかだろう。本作は、その点なかなかの仕立てで、読書の時間を楽しんだ。主人公の男は弁護士。ハード・ボイルドの主人公なら私立探偵だが、ミステリー謎を追い格闘する主役は、今の日本では、自由に動ける職業は弁護士だろう。バーで流れる音楽の選択はハード・ボイルド仕立て。悠人くんが気丈で思慮深くて母親思いだったのが救いで、読後感をそれでも爽やかにしてくれた。