Prologue ー俺、親ガチャ失敗した。ー | 水色の星

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ー 負けてたまるか。いつか唯一無二の施工管理技士になってやる。-

「親ガチャ」

 

最近、若者の間でよく使われる新語。

この言葉を考えた奴は、個人的にセンスがあると思う。

 

子供は親を選べない。

家庭環境の良い親の子供に産まれる事が出来たら、親ガチャ成功。

家庭環境の悪い親の子供に産まれてしまったら、親ガチャ失敗。

簡単に言えば、こういう意味らしい。

 

そういう意味で考えると、俺は明らかに親ガチャ失敗だ。

俺の家は子供の頃から、とにかく金がない。

 

父親も母親も金使いが荒く、父親は毎日のように仕事で気に入らない事があると、母親に当たり散らした。

母親は母親で、

「良いかい?あんたなんて別に産みたくて産んだんじゃないんだ。気づいた時には堕ろせなかっただけでね。だから高校を卒業したら、出て行っておくれ。1人食いぶちが減るだけで、お父さんもお母さんも凄く助かるんだよ。」

小学校に上がった頃から、常に母親にはこう言われて育った。

 

光熱費を節約する為に、風呂は3日に1度でシャワーのみ。洗濯も本当は毎日しなければ着るものがなくなってしまうが、1週間に1回しか許されず、困った時は学校の友人に金を借りてコインランドリーに行くように言われた。

 

食事も粗末なものばかりで、少しでも不満を漏らすと両親にボコボコになるまで殴られた。

「生意気な子だね!育ててやってるだけ有り難いと思わないのかい?!文句があるなら万引きでもして、食いたい物食えば良いだろ!」

「全くだ。誰が稼いだ金で生活出来てると思ってんだ!」

そうして殴られた後は、どんなに寒い冬の夜でも、罰としてベランダに出て眠るように言われるのが日常だった。

 

 

時が経ち、俺は17歳になった。

しかし未来に希望など見出せていない。

 

何故なら、つい昨日の夕方学校から帰るなり、父親に「出て行ってくれないか」と言われ状況が一変したからだ。

つまり、今の俺はホームレス。

借金が膨らみ自己破産する事になったらしく、免責が下りた後は離婚をして、2人とも別々の新たな道でやり直したい。その為には俺の存在が邪魔なのだと言われた。

父親も母親も、淡々と理由を俺に説明した。あんなに無感情な人間の表情を産まれて初めて見た。

 

2人を親だと思った事も、「お父さん、お母さん」と呼んだ事もない。俺には貧しい暮らしを強いていたが、アイツらは闇金等から借りた金で、ギャンブル三昧、贅沢三昧した上に、借りた金も返さず自己破産して自分達だけが新しい道でやり直したいと考えるようなクズ野郎達なのだから。

 

物心ついた頃から、絶対負けるもんかと思い生きてきた。机にかじりついて猛勉強し、意地で国立高校のIT系の学科に入学し、将来はソフトウェア開発の会社に就職するという目標も出来た。高校を卒業するまでに内定を貰い、家賃の安い部屋を借りる事が出来れば、卒業後すぐこの家を出て行ける。そう思っていた矢先の事だった。

 

空を見上げても、都会の空には星一つない。

あの家からは、ようやく「解放」されたのだ。

しかし、まだ高校在学中で家を出る準備など何も出来ていない。しかも荷造りする時間さえ与えられず、身体一つで家を追い出された俺は、救いを求めて爪から血が滲む程脚を痛めていても、歩くのをやめるわけにはいかなかった。