A-370 ダナエ
A-370 ダナエ H.17×W.28×D.17cm (ロダン作 パリ・ロダン美術館他収蔵)
こちらは、ロダンがギリシャ神話に登場する、あの”ペルセウス”の母親”ダナエ”をモデルに制作した作品です。
石膏像になっているものの原型は、フィンランド・ヘルシンキのThe Kunstmuseum Athenaeumという所にある大理石像らしいのですが、その映像はWikiには見つからず。。。
これは、Musée de Bagnols-sur-Cèze, Gard, Franceというところに収蔵されているもの。(Bagnolsってどこ??)
これは、デンマーク・コペンハーゲンのNy Carlsberg Glyptothekに収蔵されているもの。1901年の制作になってます。
ブロンズなら幾つもあるのは分かるけど、大理石製のものがそんなに複数個あるのはどういうこと?とお思いになるかもしれません。確かに、大理石の彫刻は直接石を刻んで作るわけですから。。
これは実際には、ロダンが複数個の”ダナエ”をのみでカンカン刻んで作ったわけではありません。ロダンは粘土で最初の原作を塑像したか、最初の一つの大理石像を制作したのです(たぶん粘土による塑像)。
ロダンの時代の彫刻家の大きな特徴は、分業制です。
彫刻家としてロダンが作業をするのは、ほとんどの場合粘土による塑像の部分までです。
その後の石膏像への転換、大理石への転換、ブロンズへの転換などは、全て他の人が行いました(ごく初期の貧しい時代は、かなり自分で作業したとおもいますが)。
粘土で作った作品は、そのままにしておくと乾燥が進んで壊れてしまいますし、展示するために移動することも困難です。そこで、制作が完了した粘土の作品は、別の素材に転換する必要があります。
石膏像への転換は”型抜き工”、
大理石を削り、おおまかな目印のところまでの作業が”荒削り工”、
石膏像を見ながら大理石を刻んで仕上げるのは”下彫り工”、
ブロンズへの転換作業を受け持つのが”鋳造工”、
仕上がったブロンズに緑青をつけるのが”彩色工”。
こういった粘土の部分以外の作業は、全てそれぞれの専門家が担当しました。ですから、大彫刻家としての地位を確立した1900年頃のロダンのアトリエには、こういった共同作業を担当する人々がたくさん出入りし、ひとつの工場のように”ロダン作品”を生み出していきました。
上に記したいろいろな作業の中で、大理石をロダンの原作に忠実に刻んでゆく”下彫り工”という仕事は、特別に高い芸術的な技術が要求されます。そこで、ロダンは弟子を取る代わりに、この”下彫り工”として多くの才能ある若い彫刻家を雇いました。
その中には後に有名になる、
カミーユ・クローデル
ジュール・デボワ
ポンポン
アントワーヌ・ブールデル
というすごい面子がそろっていました。もちろん、こういった作家達はロダンのアトリエで研鑽を積んで、素晴らしい彫刻家に成長していったのです。
話がだいぶ離れてしまいました。
そういうわけで、今回とりあげている”ダナエ”の大理石製の”本物”の作品は、こういった”下彫り工”達のだれかが彫ったものなのです。もちろんその仕上がり具合などは、ロダン本人によって厳しく管理されていたことでしょう。カミーユ・クローデルの彫った”ダナエ”もあるかもしれないし、”ポンポン”の彫った”ダナエ”もあったかもしれません。
こういった感覚は”彫刻”特有のものですよね。絵画については、こういった側面はほとんどありませんものね。
絵画を誰か他の人が”写し”たら、それは”贋作”と呼ばれてしまいます。でも、彫刻の場合は”コピー”するという作業が、オリジナルの制作過程に既に含まれてしまっているのです。
ロダンを語る上で、この複数存在する”本物”の話はとても重要です。
たいていの芸術家は、自身の作品が”複製”され、広く流布されることを嫌うものです。でもロダンは、上記のような彫刻の製作過程の特徴を積極的に活用し、複数個の”本物”を制作し、その名声を確立しました。
現在に至っても、世界で最も有名な彫刻家であり続ける理由の一つがここにあると思います。ロダンが”複製”を否定せず、それを積極的に活用したおかげで、ロダンの彫刻は世界中に広まったのです。
例えば、”地獄の門”は東京の上野をはじめ、世界に7体存在します(これはみなロダンの死後に鋳造されたものですが)。”考える人”も色々なサイズで、世界の色々な美術館に収蔵されています。パリのロダン美術館にわざわざ出向かなくても、ロダンの”本物”に出会えるのです。
これは彫刻作品の大きな特徴です。モナリザに出会うには、ルーブルまで行かなければなりませんから。。。
ちょっと話がくどくてすみません。”ダナエ”とは?ということも書きたかったのですが、あんまり長いのもなんなんで。。。手短に。。。
ギリシャ神話の有名エピソード・・・
アルゴス王のアクリシオスは、ある日神託で「一人娘のダナエが生む男の子に殺される」と予言されてしまいます。恐れた王は、娘のダナエを高い塔に幽閉してしまいます(石膏像はこのシーンだと思います)。
例によって、美しいダナエを前々から狙っていたゼウスが雨だれに変身して忍び込み、ダナエは身ごもります。
そうして生まれたのが、あのペルセウス。
ペルセウスは立派な青年に成長しゴルゴンの首をとりに・・・・・・・・・ってゆうお話し。。。
このエピソードは、新旧いろいろな画家に大人気のテーマです。最後に何枚か貼っておきます。
ルーブルにある古代ギリシャの赤絵のつぼの絵柄
エルミタージュにあるレンブラントの”ダナエ”
そして、やっぱりこの人ね。ウィーンにあるクリムト作”ダナエ”
今回取り上げた、A-370 ダナエは、私共の運営するオンラインショップ「石膏像ドットコム」で実際に購入していただくことが出来ます。以下のバナーをクリックすると、ショップに入れます。よかったら覗いてみてください。