こんばんは。

今回はバスの話題になります。
9月5日、新潟市BRTの第一期区間、新潟駅前~青山間が開業しました。

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新潟市BRTのシンボル、日本初導入のスカニア製シャーシにボルグレン「Optimus」を架装した連節バス「ツインくる」(←愛称ですが定着していませんしロゴもありません)

ということで、開業初日となる昨日、BRTを見に行ってきました。

まず最初にちょっとしたご説明を。長いので読み飛ばしていただいて構いません。



新潟市中心部の主要道は、一日中路線バスであふれかえっています。
これは誇張でもなんでもなく、特に新潟駅から繁華街・古町方面に向かう東大通~柾谷小路では主要系統が多数乗り入れ、便利ではありましたが、反面効率も悪く、分かりづらいという欠点が目立っていました。

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新潟駅前を一斉に発車する路線バス。一般車と入り混じって駅前通りへと進み、渋滞を引き起こすことも。
…この光景自体は、今回の再編後も変わらないのですが。

そこで、中心部のバス路線を効率的に集約して利用しやすい新交通体系を構築し、効率化によって生じた余力を以て郊外路線の維持・拡充を図る…という新たな交通システム「新潟市BRT」が新潟市を中心として計画・推進されてきました。
「BRT(Bus Rapid Transit)」とは、その名の通りバスを用いた高速輸送システム。専用レーンや専用停留所、大きな収容力のある車両等を備え、高い定時性と大きな輸送力で都市交通の基幹を担うシステムで、鉄軌道や架線が必要な路面電車方式のLRTよりも費用を安く抑えることができるとして、各地で導入への模索が続いています。

BRTの導入・バス路線の再編・交通結節点の整備によりまちなかのバスを集約し、生まれた余力を郊外へ
新潟市BRT計画の目的(新潟市HPより)。

新潟市の計画では、新潟駅~青山(交通結節点)間にBRTを整備し、郊外方面のバス路線を交通結節点止まりとして中心部へのバス流入台数を減らしつつ区間短縮により余剰となったバスで郊外区間を増便し、新潟駅~青山間は輸送力の大きな連節バスで郊外からの利用客を一気に輸送することを目指しています。以前はLRT導入を検討していましたが、新潟交通電車線の失敗や、既存のバス交通と設備を共用できることもあって計画をBRTに変更。LRV並の輸送力を持ち、シンボリックな連節バスを多数投入して専用レーンを走行させ、新潟市中心部の基幹交通とする…はずでした。
ところが、根強い反対意見も多く、計画はどんどん縮小。専用レーン設置は見送られ、目玉である連節バスもたった4台の導入に留まり、計画は骨抜きにされてしまいます。
また、従来は直通していた区間でも交通結節点での乗り換えが必要となったり、現金での利用時には市が無料配布する専用カードを使用しないと運賃が割高になるなど、不便になることを危惧する意見も多く聞かれます。

形骸化しつつある計画の行く先を不安視する声も多い中、2015年9月5日、計画の柱となる「新潟市BRT」第一期区間が「BRT 萬代橋ライン」として開業し、同時に市内バス路線網の大規模再編が実施されることとなりました。



さて、開業初日の朝。
新潟駅への乗り入れが縮小され、途中の青山止まりとなった系統を利用して青山交通結節点に向かったのですが、多くのバスでICカードのシステムに不具合が発生しているとのことで、IC定期券の読み取りが中止となっていました。この日から運行形態とともに料金体系も変化したことに起因するトラブルと考えられますが、事前のテストは行わなかったのでしょうか?いきなり嫌な予感が…。

そして青山交通結節点に到着すると、「BRT萬代橋ライン」には各線からの乗り換え客や、初日ということもあって試乗客と思しき人々が長い列を作っていたのですが、土休日でも常時10分間隔で運行されているはずの肝心の萬代橋ラインのバスは待てど暮らせどやってきません。

開業バブルの多客で多少ダイヤが乱れることは想定していましたが、この時はその想定を超えるダイヤ崩壊がすでに起こっていたのです。

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青山交通結節点はイオン新潟青山店の外周を利用。店内にはバスの発車案内ディスプレイが設置され、待合スペースとして利用できる区画も。

大幅に遅れてようやくやってきた「萬代橋ライン」のバスは、普通のバスが1台のみ。(昨年秋に導入された新型エアロスターで、趣味的には面白いとはいえ)連節バス目当てで待っていた一般客からは不満の声が漏れ聞こえましたが、順次乗り込んでいきます。
ちなみに、「BRT萬代橋ライン」は連節バス4台と通常のバス20台で運行されますが、一般の方の中には「BRT=連節バス」だと思っている方も多く、「BRTなのになんで普通のバスが来るんだ」という声も多く聞こえました。

遅延した分乗り場には多くの乗客がバスを待っており、連節バスと比べて輸送力の劣る通常のバスはすぐに満員となって積み残しが発生。しかし、乗り場に配置されたスタッフは「このバスは遅れています。すぐに発車するので乗ってください」を繰り返すばかりで、次の便の発車案内などは一切なされません。
そうこうしているうちに満員の乗客を乗せた「BRT萬代橋ライン」のエアロスターは慌ただしく出発していきました。

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通路まで立客を満載して出発する「BRT萬代橋ライン新潟駅行き」H887号車。前面には「BRT」のロゴが掲出されました。

管理人は積み残されましたので御覧のように写真を撮っていたのですが、そのわずかに数分後、なんの案内もなく「BRT」のロゴを掲げたエルガ(H880号車)が到着。数分前に出発したH887号車に積み残された待ち客、管理人を含めてわずかに数人が乗り込んだところで「遅れているのですぐに発車してください」とスタッフが運転士に告げ、満員のH887号車のすぐ後ろを追いかける形でガラガラのH880号車が発車しました。
本来であれば先発バスが発車する前に「次のバスはすぐ来ますのでお待ちください」の一言でも欲しいものですが、青山交通結節点にはバス接近案内の類は無く、案内スタッフも遅延が発生している中で次のバスがいつやってくるのか全く把握していないようでした。

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H880号車。こちらも昨年秋に導入されたATエルガ(BRT開業以前に撮影)

さて、乗車したH880号車を含め、BRT用の車両には各交通結節点での別路線乗り換え案内ディスプレイが設置されているのですが、このH880号車ではディスプレイは無表示状態。大幅遅れによって情報が取得できなかったのか…?と考えましたが、その後乗車した別の車両では遅れを反映した現在時刻ベースでの情報が表示されていましたので、こちらも事前の準備不足でしょうか。

バスは順調に進み、白山駅ロータリーを周回(ここで先行していたH887号車に追いつきました)。そして白山浦の丁字路で右折待ちをしていたときのこと。右側からBRTの連節バス002号車が左折してきたのですが、やけに大回りで信号待ちをしているこちらのバスに接近してきます。そして「あっ」と思って身構えると同時に「ガツン」と嫌な衝撃。車内がざわめきます。
…幸い、両車のサイドミラーが接触した程度で済みましたが、開業初日から接触事故が起きるとは思ってもみませんでした。

その後の報道によれば、2台のバスの乗客90名にけがはなく、事故原因は「連節バスの運転士が目測を誤った」とのこと。
通常のバスの2倍近い全長の車両を運転するのは困難が伴うのでしょうが、実車を用いた習熟運転は4か月に渡って行っています。運転士の習熟に加え、道幅の狭い区間や急カーブでのすれ違い試験などはしっかり行われたのでしょうか…?

事故後、運転士が状況を確認するために車外に飛び出して行き、現場に数分程度停車することとなりましたが、両車とも目立った損傷は無く運行継続となりました。
戻ってきた運転士氏はひたすら平謝りでしたが、車内からは開業ムードも吹き飛びお通夜モード。「こんな狭いところに連節バスを通すなんてやっぱり無謀だったんだ」という乗客同士のヒソヒソ話も聞こえ、後味の悪いスタートとなってしまいました。

終点の新潟駅に到着した際に運転席の運行支援装置をちらりとのぞいたところ、もともとの遅れ+接触事故により、定刻より30分ほどの遅れとなっていましたが、後続便に追い抜かれるということもなく、この時間帯は全便が30分程度遅れて運行されていたものと思われます。

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BRTは、新潟駅万代口ロータリーに新設された0番乗り場、1番乗り場から発車します。

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0番乗り場の入り口。屋根にはLED式の発車案内がありますが、現在時刻連動型のようで、この日のようにダイヤが大幅に乱れると役に立ちません。

新潟駅のBRTのりばも長蛇の列。連節バスを待つ人も、とにかく移動したい人も、バスが来なければ待つしかありません。案内スタッフもダイヤ乱れの全貌を把握しておらず、「申し訳ありません、少々遅れています」を繰り返すばかり。時々トランシーバーでバスの現在地を問い合わせるも「まだそんなところなんですか!?いつ来るんですか!!」と乗客以上の慌てっぷり。
結局、「万代や古町、市役所にはBRT以外の路線でも行けます」と、BRT開業によって短距離旅客の締め出しを狙っていたはずの各郊外線への分散乗車を促し始め、そのあおりを受けて郊外への主要路線も軒並み大混雑。
そのうえ、大幅遅延により後続車も連なって2~3台続行で到着したバスを、「どれも遅れているから」と全車続行で出発させたところ、運行間隔が大きく偏りさらなる混乱を招くなど、案内や運行方法が煮詰められていないなと素人目に見ても感じられる場面にもたびたび遭遇することとなりました。

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東中通に停車する連節004号車。大幅遅延により、後方に次のBRTが追い付いています。

また、大量輸送の切り札として導入された連節バスにも、落とし穴があります。
連節バスも通常のバス同様後乗り後払い方式。つまり、入口は中央と後方の2か所があり乗車はスムーズですが、出口は前扉のみで降車の際には人混みを掻き分けて一番前まで進み降車処理を行わなければならないため、結局乗降に長時間を要し、停車するごとに遅延が増大することになります。利用者の多い系統からの乗り継ぎを受けるBRTの混雑は、開業バブルの時期に限らず平日の通勤通学時間帯ならかならず発生することになりますので、早急に対策を検討しなければなりません。

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連節バスを含め、BRT用車両には各交通結節点での乗り換え案内に加え、鉄道乗り換え案内も用意されています。

また、現在運行されている連節バスはたったの4台。それ以外は通常のバスが増車もなく1台運行されていますが、通常のバスを使用する際にはせめて混雑時には柔軟に増車できるよう、近くに特発予備車を待機させるなどの体制は必要でしょう。現状では、必要に応じてBRTの運行を管理する西部営業所から出庫させているようでうが、それなりの距離があり、有効とは言い難い状況です。ただ、通常のバスはあくまで繋ぎ役、あるいは補助役のはず。連節バスの増備を行い、大多数の便を連節バスで運行できれば…と思うのですが。

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先日から運行を開始した「NGT48」ラッピングバス、H882号車もBRT対応車となりました。


結局、ダイヤの大幅な乱れ、運行間隔の偏りによる激しい混雑と積み残し、ICカード関連の不具合は終日続き、散々なスタートとなってしまいました。
報道各社のニュースでも散々な言われようでしたが、「運行開始初日だから仕方がない」では済まされないトラブルが多々発生したのも事実です。

管理人が実際に遭遇しただけでも、大幅遅延・運休、積み残し、案内装置不具合、ICカード不具合、接触事故、運賃箱の故障…とさすがに擁護できないレベルの件数です。運行方法や利用案内の混乱にも、事前の準備不足や周知不足を強く感じる結果となってしまいました。
ただ、この週末はまだまだお試し期間。この2日間で洗い出した問題点を、明日から始まる「初めての平日運行」にどうフィードバックしていくのか…運行を担う新潟交通と、計画主体である新潟市の今後の動きが注目を集めています。


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現在時刻ベースでの発車時刻案内と、リアルタイムでのバスロケーションを組み合わせた現在の発車標は、遅延発生時にはかえって混乱を招くことになってしまいます。遅延情報を一元的に管理して提供するなど、利用者目線に立った改善が望まれます。

始まったばかりの新潟市BRT、計画への反対意見はいまだ根強く、静観派や賛成派からも「今のままではいけない」といった意見が多く聞かれます。トラブルや不具合の発生はある程度仕方ないとして、そのトラブルの原因を素早く検証し、改善につなげていく絶え間ない努力が必要とされています。

最後に…BRT推進派の筆頭・新潟市長は反対派から散々に批判され続けていますが、様々な地方都市の交通事情を見てきた管理人からすれば、「地方都市の交通の現状に危機感を抱き、改革しようとしている首長がいて、さらにそれを実行に移す方法と資金がある」だけでも、新潟市はとても恵まれている…と思ってしまいます。

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BRT運用は、眼光鋭い連節バス4台、そして20台のエルガ・エアロスターが担当しています。

いまはまだ始まったばかりの新潟市BRT、初日の大混乱やその報道等により、市民からの印象は相当に悪くなっているようです。
ですが、せっかく誕生した先進的な交通システム。近い将来には安定して運行され、市民生活の足となり、初日のトラブルを「そんなこともあったね」と笑い話にできる日が来ますように…。

それでは。