悪阻。
それはモラハラDV星人にとって脅威である。
被害者が休む=サボる正当な理由となるからだ。

私は点滴を受けるレベルの悪阻だったが、ほとんど寝たきりになった私を見たモラハラ夫はある日こう言った。
「悪阻の時は身体を動かした方がいいと医者が言っていたよ」

ここで、心優しく人を疑うことを知らない被害者であれば、医者が言うのなら、と無理やり家事を始めたかもしれない。
だが、私はわりと心が汚かったのでこう思った。
病院で医者に安静にしてろと言われているのに、それを一緒に病院で聞いているのに、この男は何を言っているのだろう。
どこの藪医者がそんなことを言うのだろう。

そして、妊娠とは別件で病院に行った時にその発言をしたとされる医者に直接聞いた。
「悪阻の時は身体を動かした方がいいと言ったって本当ですか?」と。
その医者はポカンとした後で、そんなこと言ってませんよ、と言った。


結局のところ、モラ夫は家事をする人間が正当な理由で休んでいる=サボっているのが許せなかったのである。
嫁を奴隷としてこき使い、家事のあらさがしをしてイジメ抜くパラダイスな生活が脅かされている。
大事にされてひれ伏されるべきなのはモラ夫であって、夫が嫁より下ではいけない。
このままでは、正当な理由を使われ、ずっと自分が下になってしまう。家事をやらなければならなくなってしまう。もしかしたら、悪阻がおさまってもずっと。
今のうちに、嫁は何があっても夫より下であると、馬鹿嫁に身の程を知らせなければ。
みたいな感じで、よくわからん焦りを覚えていたのだろう。
いつもならもう少し本当っぽい理由をつけてモラハラ行為を正当化してくるのに、かなり苦しい理由を付けてきた。


帰宅したとき、医者はそんな発言をした覚えはないと言っていたとモラハラ夫に告げたときのモラハラ夫の顔は、悪事を暴かれた子どものようであった。
「こいつマジで確認しやがった」的な。

そしてそれでもモラハラ夫は嫁に負けるわけにはいかない。
負けることはすなわち自分の立場が下になることを意味する。
自分が下になってしまうと支配が出来なくなる。
支配できる相手がいない状況は奴らにとって死活問題である。

そこでモラハラ夫が持ち出したのは、モラハラ星の上位種にして唯一神の義母である。
しかし義母は夫の思った通りの発言をしなかった。
悪阻がひどくなかったから、自分はわからない、とだけ。
モラハラ夫は「そんなことで寝てばかりいるなんて根性が足りない」とでも言わせたかったのだろうが、義母は経験がないことについて憶測で物を言うほど愚かではなかった。


ここでモラハラ夫は窮地に追い込まれた。
妻が家事をしなくなって如何に辛いか、仕事をすることがどんなに尊いか、動けない妻の面倒をみなければならない俺がどんなに苦しいか、など。
よくわからないが勢いでしゃべり始めた。

モラハラ夫は家事は自分のぶんをやっているだけだし、
共働きで嫁は嫁の収入だけで余裕で生活できるし、
妻は倒れてにおいのない袋菓子(小さいポテチ程度の量)を一日消費するぐらいであり、自分で這いながらトイレにいくし、風呂にはシャンプーの匂いがダメになったのでほとんど入ることができないし、胃液を吐きながら自力でシャワーを浴びていた。
つまりこの時の私は金魚以下の世話しか必要としていない。

夫は家事は余計にやっていないし、仕事をする云々は妻がいようと居まいと生きていくためにするものなので妻が寝たきりなのとは関係が無いし、動けない妻の面倒などみていない。
何も夫が辛いことなどない。



私の目は上記の思いを強く語っていたのだろう、モラハラ夫はさらなる意味不明な根拠で自分は尊重されるべきと語り始め、ついには面倒見切れないから入院しろと発言し、私を病院送りにした。
ほとんど食事を与えられていなかった私は脱水症状もあり本当に入院した。

そして、退院したら待っていたのは「無駄な金使わせやがって」という謎発言である。
この時の得意げな顔は印象的であった。
怠けて入院し、家計にダメージを与えたクソ嫁、これでモラハラ夫の優位性が保たれたらしい。
どうあっても自分に落ち度があってはならない、自分の方が上でなければならない。
それが奴らの思考である。