簀桁 | 紙漉きの女房になって ~石州勝地半紙~

簀桁

昨日は家に帰る頃から降り始めた雨がすぐにみぞれになって
一気に寒さが増した。
家に着くと、今度はあられが糸のように降り注いだ。

雪が積もったかなと思ったが、
今朝は霜が降りていて、陽が上り始めると屋根から
溶けた霜がポタポタとまるで雨が降っているかのような
音をたてて落ちた。




この度の大震災でもそうだが、一次産業というのは
利益が一番薄い職業層である上に、災害リスクも大きく、
さらに簡単に排斥されてしまう恐れがある。

世界各国からの支援金も、長いスパンの運用金として
漁業や農業の人々への復興支援に使われて欲しいと願います。



さて弱々小々微々細々なる紙漉き屋ですが
原料の栽培に始まり、漉いた紙の加工品までの6次産業と
なるわけですが、漁師さんには船が必要なように
紙漉き屋にまずなくてならないのは


「簀桁(簀と桁)」です。



木枠が「桁(けた)」
$紙漉きの女房になって ~石州勝地半紙~


向こうが透けるほど 「簀(す)」



$紙漉きの女房になって ~石州勝地半紙~


この道具が高いのです。
これで30~40万円します。

簀というのは、細い竹ひごを編んだものですが
このひごの太さはシャープペンシルの芯より
細いものです。
もちろん一度にこの細さまでできるわけではなく
細くした竹ひごをいくつもの大きさの穴に通して
最終的に0.6ミリほどのひごにしていくわけです。

すべて手作業で作られるものですので、当然このくらいの
値段になるのですが、実際はこのくらいの値段でも
材料費などをひくと日当3千円ほどにしかならないそうで
この道具を作る人も日本にはわずかな人数しかいません。

ひとつの産業が衰退すると、それだけではなくそこに
関わる技術や職人さんも絶えていくことになってしまいます。

とはいっても、紙漉きでこの金額の元を取ろうと思うと
相当な仕事量になるわけですので、おいそれと道具を
注文することもできないのが現状です。


貧乏紙漉き屋(我が家のことですが)の場合、
地域の古い蔵から「むかーし漉いていた簀がでてきた」と、
100年以上前の簀などを持ってきてくださって
折れていたり、虫食いがあったりでそのままでは使えない状況ですが
これも全てひごにばらして、使えるひごだけを使って
夫が自分で編みなおして簀を手作りしています。
気の遠くなる作業ですが、一日10時間ほどコツコツと編んでも
3センチほどしか編めません。
(本職の職人さんはもっと早いでしょうけれど)

簀を編む絹糸も特別なもので、手触りはまるで釣り糸のような
強さで絹糸には見えません。
この特別な糸を作られる方も岐阜に一人いらっしゃるだけです。

道具に携わる職人さんのためにも道具をどんどん
注文したいけど、できないまったくの悪循環です。